淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第9章 哀しい誤解
大真面目に応えた春泉を感情の窺えぬ瞳で見つめていた秀龍がフと笑った。
「こんな科白の意味も判らないのか? 私はそなたを抱きたいと言っているのだよ」
「そんな―」
春泉はあまりの言葉となりゆきに固まった。
「そなたを食べたら、さぞ甘くて、やわらかくて、美味しいことであろうよ」
さあ、こちらへおいで。
両手を伸ばされ、春泉は夢中で首を振った。
また、あの眼だ。まるで鷹が上空から狙いをつけた獲物を睨めつけるような、怖い眼で春泉を見ている。
我知らずカタカタと身体が震えてきそうになるのを、春泉は懸命に我慢した。
春泉は、今度は秀龍の言葉の意味を知りながら、わざと知らないふりを装った。
「私には旦那さまのおっしゃる意味が判りません」
その言葉に、秀龍は意外なほどあっさりと手を引っ込めた。
「そうか。判らないのなら、仕方ない」
緊迫のあまり止まっていた刻が再び流れ出した―春泉には、そんな気がした。
「せめて、お茶でもお飲みになっては?」
それでも諦め切れなくて言うと、秀龍の投げやりな声がすかさず返ってきた。
「折角だが、遠慮するよ。今夜は疲れているから、このまま、ここで寝む。まだ眼を通しておかねばならぬ書類があるゆえ、私はそれを済ませてから寝るよ」
わざわざ断らずとも、秀龍と春泉は昨夜も別々に寝んだのだ。流石に二日も続けて新婚夫婦が別室で寝めば、明日の朝には、義母から、〝喧嘩でもしたのですか?〟と厭味を言われそうではあったけれど。
「明日までに片付けておかねば、義禁府長にどのような厭味を言われるか判ったものではない」
取り繕うように付け足すのが、かえって哀しかった。
やはり、秀龍さまにとっては、私は欲望処理のためだけの〝妻〟なのだ。そう思うと、泣きたくなった。
「判りました。それでは、お休みなさいませ」
頭を下げて出てゆこうとするのに、ふと呼び止められる。
「春泉」
春泉は、かすかな期待に振り向いた。
だが、秀龍は初めと同じように、もう視線は書類に落としている。
「こんな科白の意味も判らないのか? 私はそなたを抱きたいと言っているのだよ」
「そんな―」
春泉はあまりの言葉となりゆきに固まった。
「そなたを食べたら、さぞ甘くて、やわらかくて、美味しいことであろうよ」
さあ、こちらへおいで。
両手を伸ばされ、春泉は夢中で首を振った。
また、あの眼だ。まるで鷹が上空から狙いをつけた獲物を睨めつけるような、怖い眼で春泉を見ている。
我知らずカタカタと身体が震えてきそうになるのを、春泉は懸命に我慢した。
春泉は、今度は秀龍の言葉の意味を知りながら、わざと知らないふりを装った。
「私には旦那さまのおっしゃる意味が判りません」
その言葉に、秀龍は意外なほどあっさりと手を引っ込めた。
「そうか。判らないのなら、仕方ない」
緊迫のあまり止まっていた刻が再び流れ出した―春泉には、そんな気がした。
「せめて、お茶でもお飲みになっては?」
それでも諦め切れなくて言うと、秀龍の投げやりな声がすかさず返ってきた。
「折角だが、遠慮するよ。今夜は疲れているから、このまま、ここで寝む。まだ眼を通しておかねばならぬ書類があるゆえ、私はそれを済ませてから寝るよ」
わざわざ断らずとも、秀龍と春泉は昨夜も別々に寝んだのだ。流石に二日も続けて新婚夫婦が別室で寝めば、明日の朝には、義母から、〝喧嘩でもしたのですか?〟と厭味を言われそうではあったけれど。
「明日までに片付けておかねば、義禁府長にどのような厭味を言われるか判ったものではない」
取り繕うように付け足すのが、かえって哀しかった。
やはり、秀龍さまにとっては、私は欲望処理のためだけの〝妻〟なのだ。そう思うと、泣きたくなった。
「判りました。それでは、お休みなさいませ」
頭を下げて出てゆこうとするのに、ふと呼び止められる。
「春泉」
春泉は、かすかな期待に振り向いた。
だが、秀龍は初めと同じように、もう視線は書類に落としている。