淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第9章 哀しい誤解
香月はなおも首をひねっていたかと思うと、思いがけないことを言い出した。
「ねえ、いっそのこと、俺に任せてみる?」
「―何を」
仏頂面の秀龍に、香月が艶やかな極上の笑みをひろげた。この微笑をひとめ見たさに、あらゆる男が今日も翠月楼にたむろしているというのに、秀龍は気にも止めていない、どころか、大体、眼に入っていない。
「この香月さまがまだひらかない固い蕾を美しく花咲かせてあげるよ」
「―」
秀龍は無言のままだ。
香月はとっておきの話を披露するように勿体ぶった口調で続けた。
「奥さんを俺が誘惑してみようか? うん、良いな。結構、面白そう」
「―何だと?」
秀龍がピクリと片眉を上げた。
「春泉をお前の退屈しのぎの慰み者にするつもりだというのか?」
「判らないよ~。兄貴、男と女なんて、どこでどう引っ繰り返っちまうかなんて、誰にも判らないぜ。嘘から出た誠って言葉もあるくらいだからさ。もしかして、奥さんも俺も本気になったりして?」
「貴様、私に殺されたいのか?」
秀龍が烈しい眼で香月を睨みつける。
「そりゃあ、お前のあでやかな微笑みを見て、堕ちない女はいないだろうよ。だが、春泉は世の女どもとは別だ。女タラシの見せかけだけの軽薄な誘惑になんか、うかうかと乗るような馬鹿な女じゃない」
きっぱりと断じた秀龍をちらりと横目で見て、香月はフフンと鼻を鳴らした。
「へえ、随分、奥さんを信用してるんだ。これだけ拒まれてるのに?」
「それ以上、言ったら、本当に殺すぞ。そのお喋りな口を閉じろ」
秀龍は唾棄するように言い、また、ゴロリと布団に倒れ込んだ。
「兄貴に俺が殺せるはずがない。ついでに、俺も天地神明(チヨンチシンミヨン)に誓って、兄貴の大切な宝物に手を出すつもりはないよ」
「―俺をからかったのか、香月」
気の弱い者なら、震え上がるような凄みのある声だ。
秀龍が閉じていた眼をうっすらと開けると、香月はニッと人の悪い笑みを浮かべた。
「見てられないな。兄貴、本当にその娘(こ)が好きなんだね」
「ねえ、いっそのこと、俺に任せてみる?」
「―何を」
仏頂面の秀龍に、香月が艶やかな極上の笑みをひろげた。この微笑をひとめ見たさに、あらゆる男が今日も翠月楼にたむろしているというのに、秀龍は気にも止めていない、どころか、大体、眼に入っていない。
「この香月さまがまだひらかない固い蕾を美しく花咲かせてあげるよ」
「―」
秀龍は無言のままだ。
香月はとっておきの話を披露するように勿体ぶった口調で続けた。
「奥さんを俺が誘惑してみようか? うん、良いな。結構、面白そう」
「―何だと?」
秀龍がピクリと片眉を上げた。
「春泉をお前の退屈しのぎの慰み者にするつもりだというのか?」
「判らないよ~。兄貴、男と女なんて、どこでどう引っ繰り返っちまうかなんて、誰にも判らないぜ。嘘から出た誠って言葉もあるくらいだからさ。もしかして、奥さんも俺も本気になったりして?」
「貴様、私に殺されたいのか?」
秀龍が烈しい眼で香月を睨みつける。
「そりゃあ、お前のあでやかな微笑みを見て、堕ちない女はいないだろうよ。だが、春泉は世の女どもとは別だ。女タラシの見せかけだけの軽薄な誘惑になんか、うかうかと乗るような馬鹿な女じゃない」
きっぱりと断じた秀龍をちらりと横目で見て、香月はフフンと鼻を鳴らした。
「へえ、随分、奥さんを信用してるんだ。これだけ拒まれてるのに?」
「それ以上、言ったら、本当に殺すぞ。そのお喋りな口を閉じろ」
秀龍は唾棄するように言い、また、ゴロリと布団に倒れ込んだ。
「兄貴に俺が殺せるはずがない。ついでに、俺も天地神明(チヨンチシンミヨン)に誓って、兄貴の大切な宝物に手を出すつもりはないよ」
「―俺をからかったのか、香月」
気の弱い者なら、震え上がるような凄みのある声だ。
秀龍が閉じていた眼をうっすらと開けると、香月はニッと人の悪い笑みを浮かべた。
「見てられないな。兄貴、本当にその娘(こ)が好きなんだね」