淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第10章 予期せぬ真実
恐らく、秀龍と香月は何らかの拘わりがあることは確かだろうが、その背景には常人には推し量れない事情が隠されているのではないか。
春泉は、そんな風に考え始めていた。
折角、彼が自分から話そうとしているのだ。もう少し待ってみよう、秀龍はきっと話してくれる。
不思議だ、今なら、春泉は秀龍を信じられた。まだ何も真相は判っていないのに、彼を信じて待とうという気になっている。
無理もない。傍目には妓生と浮気していると受け取られても仕方のない状況なのだ。その事情を語るには、幾ら剛毅果断な秀龍でも勇気と決断力が要るはずだ。
彼女の想いが通じたのかどうか、秀龍が漸く重い口を開いた。
「私からも一つだけ、そなたに話しておかねばならないことがある」
秀龍の視線が真っすぐにこちらに向けられている。春泉は逃げることなく、その視線をしっかりと受け止めた。
「はい。どうかお話し下さいませ、秀龍さま」
秀龍さまのお話を聞く覚悟はできております。私なら、大丈夫です。
言外にその想いを瞳に込めたつもりだ。
気丈な彼女の様子に、秀龍はどこか安心したように頷いた。
「翠月楼に香月という妓生がいる」
「存じております」
秀龍は春泉の反応を確かめるように見てから、また話し始める。
「何から話して良いものか。すべてを話せば、随分と長い話になる。何しろ、私と香月がまだほんの子どもの時分から話さねばならないから」
春泉は全く予想外の話に眼を瞠った。
「では、香月は秀龍さまの幼なじみなのですか?」
「ああ。そんなものだな。香月は私の親友の弟なんだ」
えっ、と、春泉は危うく上げかけた声を呑み込んだ。
今、秀龍さまは何とおっしゃった?
確か、香月は親友の弟だと―。
でも、香月は翠月楼の妓生で、妓生というのは普通は女で―。
妹というのなら話は落ち着くのだが、弟というのは一体、どういうことなのか。
まさか秀龍がこの期に及んで戯れ言を言っているはずはない。春泉は考えていけばいくほど、判らなくなり、混乱してしまった。
春泉は、そんな風に考え始めていた。
折角、彼が自分から話そうとしているのだ。もう少し待ってみよう、秀龍はきっと話してくれる。
不思議だ、今なら、春泉は秀龍を信じられた。まだ何も真相は判っていないのに、彼を信じて待とうという気になっている。
無理もない。傍目には妓生と浮気していると受け取られても仕方のない状況なのだ。その事情を語るには、幾ら剛毅果断な秀龍でも勇気と決断力が要るはずだ。
彼女の想いが通じたのかどうか、秀龍が漸く重い口を開いた。
「私からも一つだけ、そなたに話しておかねばならないことがある」
秀龍の視線が真っすぐにこちらに向けられている。春泉は逃げることなく、その視線をしっかりと受け止めた。
「はい。どうかお話し下さいませ、秀龍さま」
秀龍さまのお話を聞く覚悟はできております。私なら、大丈夫です。
言外にその想いを瞳に込めたつもりだ。
気丈な彼女の様子に、秀龍はどこか安心したように頷いた。
「翠月楼に香月という妓生がいる」
「存じております」
秀龍は春泉の反応を確かめるように見てから、また話し始める。
「何から話して良いものか。すべてを話せば、随分と長い話になる。何しろ、私と香月がまだほんの子どもの時分から話さねばならないから」
春泉は全く予想外の話に眼を瞠った。
「では、香月は秀龍さまの幼なじみなのですか?」
「ああ。そんなものだな。香月は私の親友の弟なんだ」
えっ、と、春泉は危うく上げかけた声を呑み込んだ。
今、秀龍さまは何とおっしゃった?
確か、香月は親友の弟だと―。
でも、香月は翠月楼の妓生で、妓生というのは普通は女で―。
妹というのなら話は落ち着くのだが、弟というのは一体、どういうことなのか。
まさか秀龍がこの期に及んで戯れ言を言っているはずはない。春泉は考えていけばいくほど、判らなくなり、混乱してしまった。