淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第10章 予期せぬ真実
かなり混乱気味の春泉を見て、秀龍が少しだけ笑った。
「そなたが当惑するのも無理はない。世の中の常識では、妓生は女人がなるもので、男がなるものではない。さりながら、香月は正真正銘、筋金入りの男なのだ。先刻も言ったように、話はたいそう昔に遡るがね」
そこで春泉が聞いた香月の身の上話はあまりにも想像を絶するものであった。憐れともいえ、また、香月という人の破天荒な人柄を何より物語る内容だったのである―。
二人から数歩離れた手前に、鮮やかな黄色の牡丹が二本、寄り添い合うようにひっそりと咲いている。牡丹の花にひっそりという形容は、あまりふさわしくないようにも思えるが、濃いピンクや緋色の牡丹と異なり、慎ましやかな黄色には、その表現がぴったりなようだ。
よくよく見ると、一枚一枚の花びらは薄様の紙のようであり、花全体は、その繊細な花びらを無数に重ね合わせて、できている。まさに、天の神が作り給うた自然の奇蹟とでも言うべき美しさだ。
しかし、五月も半ばが近づいてきたこの時期には、牡丹もそろそろ見頃は過ぎたようで、片方の花は既に花びらが開き切って、散る寸前である。
牡丹と入れ替わるように花をつけ始めているのは紫陽花で、まだ漸く薄緑の固い花が見られるようになったばかりだ。
奇しくも、牡丹は秀龍と春泉にとっては想い出の花となった。二人で遠乗りに出かけた天上苑には薄紅の牡丹が一面に群生しており、更に秀龍が真心と共に贈ってくれたのは白牡丹の花であった。
その想い出の花牡丹の花期もそろそろ終わる。
うつろう季節のように、自分たちもまた一つの季節を終え、新たな季節の始まりを迎えようとしているのかもしれない。
春泉は、ほどなく散ろうとしている黄牡丹を眺めるともなしに眺めていた。
そんな春泉の想いを知ってか知らずか、秀龍もまた眼前の牡丹に視線を向けている。しかし、彼の方は花を見ているようでいて、その実、瞳には何も映ってはいないようでもあった。
「そなたが当惑するのも無理はない。世の中の常識では、妓生は女人がなるもので、男がなるものではない。さりながら、香月は正真正銘、筋金入りの男なのだ。先刻も言ったように、話はたいそう昔に遡るがね」
そこで春泉が聞いた香月の身の上話はあまりにも想像を絶するものであった。憐れともいえ、また、香月という人の破天荒な人柄を何より物語る内容だったのである―。
二人から数歩離れた手前に、鮮やかな黄色の牡丹が二本、寄り添い合うようにひっそりと咲いている。牡丹の花にひっそりという形容は、あまりふさわしくないようにも思えるが、濃いピンクや緋色の牡丹と異なり、慎ましやかな黄色には、その表現がぴったりなようだ。
よくよく見ると、一枚一枚の花びらは薄様の紙のようであり、花全体は、その繊細な花びらを無数に重ね合わせて、できている。まさに、天の神が作り給うた自然の奇蹟とでも言うべき美しさだ。
しかし、五月も半ばが近づいてきたこの時期には、牡丹もそろそろ見頃は過ぎたようで、片方の花は既に花びらが開き切って、散る寸前である。
牡丹と入れ替わるように花をつけ始めているのは紫陽花で、まだ漸く薄緑の固い花が見られるようになったばかりだ。
奇しくも、牡丹は秀龍と春泉にとっては想い出の花となった。二人で遠乗りに出かけた天上苑には薄紅の牡丹が一面に群生しており、更に秀龍が真心と共に贈ってくれたのは白牡丹の花であった。
その想い出の花牡丹の花期もそろそろ終わる。
うつろう季節のように、自分たちもまた一つの季節を終え、新たな季節の始まりを迎えようとしているのかもしれない。
春泉は、ほどなく散ろうとしている黄牡丹を眺めるともなしに眺めていた。
そんな春泉の想いを知ってか知らずか、秀龍もまた眼前の牡丹に視線を向けている。しかし、彼の方は花を見ているようでいて、その実、瞳には何も映ってはいないようでもあった。