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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第11章 男装女子

「私、正直言うと、狩りはあまり好きではないのです。罪のない動物が意味もなく殺されるのは見ていられなくて」
「優しいんだね」
 香月の労るような、愛おしむようなまなざしに何か落ち着かないものを感じ、春泉は居たたまれず、うつむいた。
 香月がふふ、と意味深に笑う。
「箱入りの奥さまは亭主以外の男と二人だけで出かけちゃ駄目だもんね」
 からかうように言った香月の言葉に、春泉はまたしても頬を赤らめた。
 だが、幾ら男性と二人だけで密室にいると思おうとしても、眼の前の艶やかな妓生姿の香月とでは、今一つ実感が湧かない。
「それにしても、奥さんって、ホント、可愛いよね。俺が何か言ったら、すぐに真っ赤になるし」
「からかわないで下さい。あなたみたいに凄く綺麗な方に可愛いだなんて言われても、全然、褒められた気がしません」
 春泉が大真面目に言うのに、香月は眼を丸くした。
「何で? 言っとくけど、君は凄く可愛いし魅力的だよ。大体、あの堅物、彼女いない歴二十四年の兄貴が初めて腑抜け状態に―もとい、ぞっこんに惚れた女だもの。逢う前から、相当良い女だと俺は踏んでたね」
 あまりにも過剰とも思える科白に、春泉は本気で脱力しそうになった。
「だから、俺の方は実は、君にずっと逢ってみたいと思ってたんだ」
「だったら、私は香月さまの期待を裏切ってしまったと思います。私は全然綺麗でもないし、可愛いとすら言えませんもの」
「ふふ、本当にそう思ってるの? だとしたら、君は男ってものが全然判ってないな。男が実は女に期待してるものって、凄ぶるつきの美人だとか、そんなんじゃないんだよ。何て言ったら良いのか」
 香月は言葉を途切れさせ、小首を傾げて見せた。
「ま、良いか。とにかく、君は自分で自分の価値が全然判ってない。だから、兄貴は余計に心配なんだろうな。自分の魅力とか美しさに無自覚なのは、あまりに危なっかしすぎるからね」
「はあ、何だかよく判りませんけど」
 春泉の不審顔に、香月は笑った。

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