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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第14章 月下の真実

 手のひらで口許を押さえ、烈しく嘔吐(えづ)く春泉の背後から、気遣わしげな声が降ってくる。
「大丈夫か?」
 コホコホと咳き込む春泉の背を躊躇いがちに温もりのある手が撫でる。
「食あたりか?」
 その問いに、春泉は力なくかぶりを振った。
「それはないと思います。ここのところ、ずっとろくに食べられなくて。お粥なら食べられるかと思って、食べてみるのだけど、結局、食べられてなく全部残してしまうんです。吐き気も今だけじゃなくて、もうずっと続いていて、何も食べてないのに、気分が悪くて吐きそうになってしまう。何か重い病気なのかもしれませんね」
 春泉は涙声で言った。
 香月はしばらく考え込んでいるようだったが―、やがて、静かな声音で言った。
「春泉、間違ってたら申し訳ないけど、もしかしたら、君は懐妊しているのではないのか?」
「懐―妊? 私が」
 春泉のきょとんとした表情に、香月が微笑む。
「そう、兄貴の子を身籠もってるんじゃないのかって言ってるんだよ」
「まさか、でも」
 言いかけて、春泉は頬を染めた。そういえば、もうずっと月のものが来ていない。確か最後に月事があったのは四ヵ月も前、去年の終わり頃のことだ。
 刹那、春泉は思い当たった。何故、オクタンがここ最近、春泉の外出を渋るようになったか―。
 あの忠義な心優しい乳母は、春泉の懐妊に薄々は気づいていたのだ。皇家に嫁いだ当初は春泉の世話を焼いていたオクタンだったが、前任の女中頭が寄る年波で引退してからは、代わりに女中たちを束ねる役目を果たしている。
 その分、春泉と接することは少なくなり、今は春泉より一つ年下の女中が春泉付きとなっていた。離れていても、春泉の体調のちょっとした変化に敏感なところは、流石に長年春泉の傍にいて成長を見守ってきた乳母だけはある。
 春泉は、オクタンまでもが秀龍に同調して、自分を籠の鳥のように屋敷に閉じ込めておく気になったのだと内心、憤慨していたのだ。
 が、実際には、オクタンはどうやら秀龍の子を身籠もったらしい春泉の身体のことを案じていたに違いない。

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