テキストサイズ

淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第14章 月下の真実

「そんなに気になるほど惚れてるのなら、どうして、もっと大切にしてやらないんだよ? いや、気になるから、春泉を屋敷の奥に閉じ込めて、駕籠の鳥みたいにどこへも出してやらなかったんだよね」
「チュ、春泉だと? 貴様、他人の妻を勝手に馴れ馴れしく呼ぶな!」
 一人で激昂する秀龍を尻目に、英真は淡々と言う。
「けど、お生憎さま、俺が彼女をどう呼ぼうが、彼女と俺がどうなろうと、兄貴には拘わりのないことだ」
「何だと? 春泉は私の妻だ。そなたが馴れ馴れしく近づいて良いような女ではない。憂さ晴らしがしたいのなら、他を当たれ」
「ふーん。兄貴も世の男と変わらないことを言うんだ? マ、どんな格好しようと、俺もその一人であることは変わらないけどさ、男って、つくづく身勝手だよね。俺は男としても女としても両方の立場からいつも世の中を見ているから、兄貴みたいに男の論理だけで物事を考えられないんだ。いつも男にこんな風なことを言われたら、あんな扱いをされたら、女ならまずどう思うかって考える。皮肉なものだよね。妓生になったことで、逆に男なのに、男って生きものの醜さがはっきりと見えてきたんだから。俺自身も男なのにさ」
「私は今、そなたと言い合いをしているような気分じゃないんだ、英真。手を放してくれ。悪いが、もう今夜は帰る」
 できるだけ穏やかな声音に聞こえるように言ったつもりだが、自信はなかった。
 頼むから、この手を放してくれ。さもなければ、私は大声を上げて叫びながら、この部屋だけでなく、翠月楼にあるものすべてを片っ端から壊し回るかもしれない。それほどまでに、ささくれだった凶暴な気分になっているのだ。
「手を放す前に、先に約束してくれ。春泉が何故、屋敷を出たのか、一体、兄貴たちの間に何があったのかを話して欲しい」
 秀龍が何か言おうとする前に、英真は遮った。
「言っとくけど、春泉と兄貴の問題だから、お前には関係ない―なんていうのは、ナシだよ。兄貴が真実を話すのなら、俺も春泉の居所を教えてやらないこともない」
 意味深に言われ、秀龍はウッと言葉に詰まった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ