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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第14章 月下の真実

「だって、いかにも兄貴らしい失敗談だからさ。馬鹿だな。兄貴、その女に嵌められたんだよ」
「嵌められた?」
 意外そうな顔の秀龍に、英真が笑い過ぎて涙眼で言った。
「そうさ。まあ、どこまで芝居かは知らないけど、多分、部屋に戻ってから腹が痛いと兄貴を引き止めたのは、女の計略。兄貴はものの見事にまんまとその策に引っかかったんだよ」
「どういうことだ」
 秀龍が血相変えて詰め寄るのに、英真が肩を竦める。
「そんになおっかない顔は止してくれよ。何も俺が兄貴を嵌めたわけじゃないんだ。女の罠に引っかかったのは兄貴だろ」
 つまり、仮病を使ったのさ。
 英真の呟きに、秀龍の端整な貴公子然とした顔がスウと蒼褪めた。
「おい、まさか腹立ちのあまり、女を殺(や)る気じゃないだろうね」
 まさか、と言い返しながらも、秀龍はいつしか自分があの女官―林美京と名乗った―を殺してやりたいほど憎いと思っていることに気づき、茫然とする。
 英真は、そんな秀龍を静かな瞳で見ていたかと思うと、唐突に思いがけないことを言い出した。
「ねえ、兄貴。今し方、兄貴は春泉が人妻だから、俺が近づいたら駄目だと言ったけど、じゃあ、兄貴はどうなの?」
 英真の言葉の意味を計りかね、秀龍は眼を見開く。
「女は結婚したら、他の男と仲好くするのは駄目で、男はたとえ妻子持ちでも、妓生を抱いても良いんだよね? 男の理屈って、そんなもんだろ」
「そなたの言わんとしていることが、私には判らない」
 秀龍が苛立たしげに言うと、英真は皮肉げに口の端を歪めた。
「別に。俺はただ、兄貴もまた、ここに来る助平な客たちと同じだなと思っただけだよ。自分のかみさんには浮気するなとか、他の男と話もするなとか言って屋敷の奥に閉じ込めておく癖に、自分は外で好き勝手なことをするんだね、兄貴も」
「俺がいつ、どこでそんなことをしたと言うんだ!」
「そりゃア、今回の一件は未遂にすぎなかったけど、結局、そうなりかねない状況を作ったのは言い逃れようのない事実だろ」

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