淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第14章 月下の真実
だが、今、英真にあからさまに指摘され、その自信が単なる思い込みにすぎないと気づいた。何か、自分の立っていた大地ががらがらと音を立てて脚許から崩れ落ちてゆくような心許なさを感じする。
「そなたに責められても致し方ない。今回の件は元を正せば、私の軽挙に原因があるのだ」
秀龍は漸く少しだけ本来の彼らしい落ち着きを取り戻し、訥々と事情を話し始めた。
ひと月前、義禁府長に残業を命じられ、腐っていたところに、女官と遭遇したこと。その女官が腹痛を起こして、あまりに苦しげだったので、部屋まで運んで介抱してやったこと。
むろん、引き止められ、去ろうにも去れず、結局、朝まで共に同じ部屋にいたことまで話し、更につい昨日、その女があろうことか、屋敷まで乗り込んできたことまでをかいつまんで話した。
どうやら、英真が自分の驕りと思い込みに気づかせてくれたようだ。
心のどこかで、秀龍自身も誰かにこの自分の愚かしい失敗談を聞いて欲しいと願っていたのかもしれない。英真にすべてを話すことで、彼は自分の心が先刻までとは嘘のように軽くなっていることに気づいた。
そうしてみると、いつまでも子どもだ、年下だと思っていた義弟は、いつしかめざましい成長を遂げ、自分よりもよほど先の高みへと立ち、大きな男になっていたのだと知り、秀龍は感慨と共に、我が身の器の小ささが改めて恥ずかしかった。
―明賢、お前の小さかった弟は、いつのまにか私の知らない間に、私などよりよほど大人になっていたようだ。
心の中で、亡き友に呼びかける。
英真が急激な心の成長を遂げたのも、やはり、妓房で女郎として生き、苦界という女たちの生き地獄をその眼で見てきたからだろう。そう思うと、親友の大切な弟をむざと妓生にしてしまった自分の罪深さを改めて感じてしまう秀龍であった。
しかし。
そんな秀龍の感傷は瞬く間に吹き飛ばされた。
すべてを語り終えた後、げらげらと腹を抱えて大笑いする英真の前で、秀龍は苦虫を噛み潰したような表情で座っていた。
「この話の何がおかしい。俺はこれでも真剣に悩んでるんだぞ」
英真はまだ笑いが止まらないらしく、涙さえ滲ませていた。
「そなたに責められても致し方ない。今回の件は元を正せば、私の軽挙に原因があるのだ」
秀龍は漸く少しだけ本来の彼らしい落ち着きを取り戻し、訥々と事情を話し始めた。
ひと月前、義禁府長に残業を命じられ、腐っていたところに、女官と遭遇したこと。その女官が腹痛を起こして、あまりに苦しげだったので、部屋まで運んで介抱してやったこと。
むろん、引き止められ、去ろうにも去れず、結局、朝まで共に同じ部屋にいたことまで話し、更につい昨日、その女があろうことか、屋敷まで乗り込んできたことまでをかいつまんで話した。
どうやら、英真が自分の驕りと思い込みに気づかせてくれたようだ。
心のどこかで、秀龍自身も誰かにこの自分の愚かしい失敗談を聞いて欲しいと願っていたのかもしれない。英真にすべてを話すことで、彼は自分の心が先刻までとは嘘のように軽くなっていることに気づいた。
そうしてみると、いつまでも子どもだ、年下だと思っていた義弟は、いつしかめざましい成長を遂げ、自分よりもよほど先の高みへと立ち、大きな男になっていたのだと知り、秀龍は感慨と共に、我が身の器の小ささが改めて恥ずかしかった。
―明賢、お前の小さかった弟は、いつのまにか私の知らない間に、私などよりよほど大人になっていたようだ。
心の中で、亡き友に呼びかける。
英真が急激な心の成長を遂げたのも、やはり、妓房で女郎として生き、苦界という女たちの生き地獄をその眼で見てきたからだろう。そう思うと、親友の大切な弟をむざと妓生にしてしまった自分の罪深さを改めて感じてしまう秀龍であった。
しかし。
そんな秀龍の感傷は瞬く間に吹き飛ばされた。
すべてを語り終えた後、げらげらと腹を抱えて大笑いする英真の前で、秀龍は苦虫を噛み潰したような表情で座っていた。
「この話の何がおかしい。俺はこれでも真剣に悩んでるんだぞ」
英真はまだ笑いが止まらないらしく、涙さえ滲ませていた。