淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第14章 月下の真実
ウォーと、人が聞けば、それこそ熊か何か獣の雄叫びだとしか思えないような意味不明の言葉を叫びながら、走り回っている。
歓びのあまり感極まっている当人は〝やったー、でかしたぞ、春泉〟と言っているつもりなのだが、誰が聞いても、ただの咆哮としか聞こえない。
英真がこの有り様を見たら、またしても腹を抱えて大笑いするのは明らかだ。
ひとしきり大騒ぎした秀龍がふと立ち止まり、春泉に訊ねる。
「それで、医者にはもう診せたのか?」
その問いに、春泉は首を振った。
「いいえ、まだです。でも、恐らくは間違いはないと思います」
「春泉、私が言いたいのは、間違いかどうかということではない。誰にでも勘違いというものはあるのだから、仮に間違いであっても、またの機会を待てば良いだけの話だ。とにかく、一刻も早く医者に診て貰いなさい。身籠もっているのであれば、医者に掛かり、十分に養生せねば」
真顔で言う秀龍に、春泉は微笑んだ。
「私なら、大丈夫です。出産は病気ではありませんもの。そのようにご心配の必要はありませんわ」
話を聞くところによると、春泉の母チェギョンもお産はごく軽いもので、初めての出産にも拘わらず、陣痛が始まってからわずか数時間で春泉を生み落としたという。
「いや、念には念を入れねば。用心するに越したことはない」
秀龍は早くも再び過保護ぶりを発揮している。
その後、二人はしばらく桜の樹の下を歩いた。円いよく太った月が地上を照らし、清かな光を投げかけている。
月明かりにほのかに発光するように煌めき揺らめきながら、風もないのに、薄紅色の花びらが散り零れる。
隙間もなくびっしりと重なり合った花が珊瑚細工のように光っていた。秀龍と春泉の前を漂い流れる花片がひらひらと舞ってゆく。
春泉は満ち足りた想いの中に浸りながら、その夢のように美しい春の夜の光景に見惚れた。
蒼褪めた月に、くっきりと影が現れている。その影を仰ぎ見ながら、二人はいつまでも名残を惜しむかのように、その場に佇んでいた。
歓びのあまり感極まっている当人は〝やったー、でかしたぞ、春泉〟と言っているつもりなのだが、誰が聞いても、ただの咆哮としか聞こえない。
英真がこの有り様を見たら、またしても腹を抱えて大笑いするのは明らかだ。
ひとしきり大騒ぎした秀龍がふと立ち止まり、春泉に訊ねる。
「それで、医者にはもう診せたのか?」
その問いに、春泉は首を振った。
「いいえ、まだです。でも、恐らくは間違いはないと思います」
「春泉、私が言いたいのは、間違いかどうかということではない。誰にでも勘違いというものはあるのだから、仮に間違いであっても、またの機会を待てば良いだけの話だ。とにかく、一刻も早く医者に診て貰いなさい。身籠もっているのであれば、医者に掛かり、十分に養生せねば」
真顔で言う秀龍に、春泉は微笑んだ。
「私なら、大丈夫です。出産は病気ではありませんもの。そのようにご心配の必要はありませんわ」
話を聞くところによると、春泉の母チェギョンもお産はごく軽いもので、初めての出産にも拘わらず、陣痛が始まってからわずか数時間で春泉を生み落としたという。
「いや、念には念を入れねば。用心するに越したことはない」
秀龍は早くも再び過保護ぶりを発揮している。
その後、二人はしばらく桜の樹の下を歩いた。円いよく太った月が地上を照らし、清かな光を投げかけている。
月明かりにほのかに発光するように煌めき揺らめきながら、風もないのに、薄紅色の花びらが散り零れる。
隙間もなくびっしりと重なり合った花が珊瑚細工のように光っていた。秀龍と春泉の前を漂い流れる花片がひらひらと舞ってゆく。
春泉は満ち足りた想いの中に浸りながら、その夢のように美しい春の夜の光景に見惚れた。
蒼褪めた月に、くっきりと影が現れている。その影を仰ぎ見ながら、二人はいつまでも名残を惜しむかのように、その場に佇んでいた。