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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第2章 ひとりぼっちの猫

 降り止むどころか、烈しさを増してゆく雪が風に舞い、木瓜の花に降り積もってゆく。
 雪まみれになるのも厭わず、春泉はその場に立ち、白く彩られてゆく花を食い入るように眺めていた。
 父は娘の自分と歳の変わらぬ若い娘の尻を追いかけ回し、母は母で息子のような若い男を良人の眼を盗んでは寝床に引き入れる。
 ああ、いやだ。こんな家にはこれ以上、一刻たりともいたくない。でも、逞しい留花と違って、一人で生きてゆくすべを春泉は持たない。たとえこの屋敷を出ても、すぐに野垂れ死にするのが関の山といったところだろう。
 その時。ニーと小さな啼き声が響き、春泉はハッと息を呑んだ。眼前を一匹の猫が悠々とした脚取りで通り過ぎてゆく。まだほんの仔猫なのか、小さい身体は殆ど灰色で、所々に白の筋が入っている。
「お前、まるで小さな虎みたいね」
 仔猫は立ち止まり、春泉をつぶらな瞳で無心に見上げている。
「おいで、小虎(ソチヨ)」
 呼びかけると、その名前が気に入ったのか、またニィと可愛らしい啼き声を上げるのがまるで〝はい〟と返事をしているようだ。
 野良の癖に妙に人慣れしている小虎は、怖れげもなく春泉に近寄ってくる。春泉は自分の背中に垂らした三つ編みに結んでいた紅い紐を解き、小虎の首に巻いてやった。
「よろしくね、小虎。お前も私と同じで一人ぼっちなのかしら?」
 一人ぼっちと口に出して言ってしまうと、自分もこの小さな野良猫も全く同じで行き場がないのだとひたひたと孤独感が押し寄せてくる。
 背中と喉を指で撫でてやると、気持ち良さそうに眼を細め、喉をグルグルと鳴らす。
「ねえ、お前、私の飼い猫にならない? 私、今まで、とっても淋しかったの。お前が私の友達になってくれたら、嬉しいんだけど」
 小虎はニイと啼いて、素直に春泉の伸ばした腕に抱かれた。まるで人の言葉が判っているのではと思ってしまうくらいに利口な猫である。
―私、今まで、とっても淋しかったの。
 その思いがけず洩れたひと言が、これまでの彼女の哀しみを―図らずも留花が言い当てた哀しみを端的に象徴していた。

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