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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第16章 眠れる美女

「やはりとは、どのような意味なのでしょう?」
 秀龍は春泉の淹れた茶を美味そうにすすった。
「実は、大(テー)監(ガン)からも似たような苦情を聞いた」
 この場合、大監というのは、元左議政李漢海である。
 秀龍は身を乗り出すと、声を落とした。
「若夫人の実家から見舞客が訪れても、今は逢わせられないと追い返すそうだ」
「それは変ですね。幾ら外聞をはばかるとはいっても、他ならない若夫人のご実家の方―つまりお身内ならば、逢わせたとしても支障はさほどないように思えますのに」
 そこで、春泉は今日の出来事を思い出しながら続けた。
「もしや遣いの者ゆえ、逢わせないのでは?」
 吏曹判書夫人は、若夫人の実家から毎日のように遣いの者が訪ねてくると言っていたはずだ。
 いや、と、秀龍が首を振った。
「大監の奥方が四度、大監と奥方、打ち揃っては二度訪れたそうだ。そのいずれにも、吏曹判書夫人は、そなたに申したのと同様の断り文句で娘に対面させず追い返している」
「遣いの者ならばともかく、実のご両親にさえ逢わせないとは」
 春泉が吐息混じりに言うのに、秀龍も眉根を寄せた。
「大監自身も、娘に何かよほどの事が起きたのではないかとたいそう案じられている」
 秀龍は今でも、時折、李漢海の屋敷に呼ばれ、趣味の碁の相手を務めることがあった。良人としてはあまり気が進まないらしいが、当の漢海自身は実は秀龍を気に入っているのだ。
「お父上ならば、当然の心情でしょう」
 春泉が呟いた時、秀龍が嘆息した。
「それにしても、おかしな話だ。幾ら体面を保つためとはいえ、若夫人の実の両親が逢いたいと申しているのだ、普通なら、そう無下に断ることはできまい。人の情としても、また大監自身の力を慮っても」
 確かに良人の言うとおりだ。このまま吏曹判書一族が鈴寧を実家の者に逢わせない状態が続けば、漢海が黙ってはいないだろう。可愛い娘の嫁ぎ先だから、今はまだ我慢しているのだろうが―。
「頑なに対面を拒むほどの事態が起きた―、或いは、既に若夫人が死んでいるとか」
 その何げないひと言に、春泉はギョッとした。

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