淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第3章 父の過ち
「俺は、何て馬鹿なことをしたんだと妹を叱った。俺は、妹には幸せになって欲しかった。貧しくても良いから、妹だけを見て、大切にする誠実な男とめぐり逢って、添い遂げて欲しいと考えていたんだ。なのに、好色な親ほども歳の違う男の囲い者になるなんて」
「だが、何で殺されたんだ、お前の妹は」
光王の当然の問いに、ソヨンの瞳に怒りの焔が燃え上がった。
「目障りになったから、消されたんだよ。急に帰ってきた時、妹はこうも言った」
―旦那さまの子どもを身籠もったの。これで、お兄ちゃんにも村のお父さんやお母さんにも楽がさせてあげられる。
「ふうん? けど、その旦那とかやらは、お前の妹が子どもを生んでは、まずいのか?」
いや、と、昏い声が返ってきた。
「女好きの金持ちのことだ。これまでにも似たようなことは何度もあったらしい。気に入った女を町のどこかの別邸に匿い、奥方には内緒でひそかに通っていたそうだ。その中の何人もが妊娠して、子どもを生んでいる。でも、表向きには、その男の子は、奥方の生んだ娘一人しかいないということになっていると聞いた」
「じゃあ、他の女の子どもは? 始末したのか」
〝始末〟という言葉に、ソヨンがビクリと怯えたような顔を見せた。元々、気の弱い質なのだろう。それで入水自殺などしようとしたのだから、よくよく思いつめていたと見える。
「いや、それは違う。生まれた庶子はすべて里子に出された。奥方が随分と嫉妬深い人なんだそうだ」
「気に入った複数の女をあちこちの別邸にねえ。男としては羨ましい限りの話だが、どうせやるなら、もっと堂々とやるべきだ。女房に遠慮して、自分の子を里子に出すなんざ、情けねえ。そんなんなら、最初から浮気なんてしなけりゃ良いのによ」
光王の父は母と深間になった当時、許嫁(いいなずけ)がいた。相手はむろん、れきとした両班の令嬢である。父はその許嫁と結婚するために、邪魔者である母とその腹に宿った光王を切り棄てた。
満更、他人事とも言えない話のなりゆきに、光王はやるせない憤りに囚われた。
「おい、ふざけてるのか。俺は妹が死んだと言ったはずだぞ」
ソヨンが光王の軽口に眉を寄せた。
済まん。光王は呟き、続けた。
「だが、何で殺されたんだ、お前の妹は」
光王の当然の問いに、ソヨンの瞳に怒りの焔が燃え上がった。
「目障りになったから、消されたんだよ。急に帰ってきた時、妹はこうも言った」
―旦那さまの子どもを身籠もったの。これで、お兄ちゃんにも村のお父さんやお母さんにも楽がさせてあげられる。
「ふうん? けど、その旦那とかやらは、お前の妹が子どもを生んでは、まずいのか?」
いや、と、昏い声が返ってきた。
「女好きの金持ちのことだ。これまでにも似たようなことは何度もあったらしい。気に入った女を町のどこかの別邸に匿い、奥方には内緒でひそかに通っていたそうだ。その中の何人もが妊娠して、子どもを生んでいる。でも、表向きには、その男の子は、奥方の生んだ娘一人しかいないということになっていると聞いた」
「じゃあ、他の女の子どもは? 始末したのか」
〝始末〟という言葉に、ソヨンがビクリと怯えたような顔を見せた。元々、気の弱い質なのだろう。それで入水自殺などしようとしたのだから、よくよく思いつめていたと見える。
「いや、それは違う。生まれた庶子はすべて里子に出された。奥方が随分と嫉妬深い人なんだそうだ」
「気に入った複数の女をあちこちの別邸にねえ。男としては羨ましい限りの話だが、どうせやるなら、もっと堂々とやるべきだ。女房に遠慮して、自分の子を里子に出すなんざ、情けねえ。そんなんなら、最初から浮気なんてしなけりゃ良いのによ」
光王の父は母と深間になった当時、許嫁(いいなずけ)がいた。相手はむろん、れきとした両班の令嬢である。父はその許嫁と結婚するために、邪魔者である母とその腹に宿った光王を切り棄てた。
満更、他人事とも言えない話のなりゆきに、光王はやるせない憤りに囚われた。
「おい、ふざけてるのか。俺は妹が死んだと言ったはずだぞ」
ソヨンが光王の軽口に眉を寄せた。
済まん。光王は呟き、続けた。