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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第3章 父の過ち

「判らねえな。男は生まれた子はすべて里子に出している。なら、何でお前の妹は殺されちまったんだ? 里子に出しちまうのなら、別に殺す必要も手間もないだろうに」
「あいつは馬鹿だ、本当にどうしようもない大馬鹿者だ」
 ソヨンの両膝で握りしめた拳が白くなっている。それほどにきつく握りしめているのだ。
「子どもを手放したくないとでも言ったのか?」
 光王の言葉に、ソヨンは辛そうに首を振った。
「それなら、まだ良かった」
 彼の妹は懐妊を盾に、旦那を脅迫したのだ。自分の生んだ子を是非、跡取りに立てて欲しいと。
「正室腹の娘は女だから、いずれ嫁に出る。もし、自分の子が男子であれば、その家の嫡子として欲しい。奥方の養い子という形にしてでも跡継にしてくれとせがんだと言っていた」
「フーム、少し話が見えてきた。つまり、妹はそのために殺されたんだな。後は、もし自分の子を跡継に立ててくれなければ、浮気を奥方にばらすとか何とか言って、旦那を脅した―?」
 その指摘に、ソヨンが愕いたように光王を見た。
「愕いたな。あんたは見かけの割に随分と鋭いんだ。最初はただの軽い女タラシかと思ったから」
「おい、見かけの割にってえのは、ひと言余計だろ。」
 それに何だ、仮にも生命の恩人に向かって、軽い女タラシとは。失礼なヤツだ。 
 光王は憮然としながら、開きっ放しの包みから残りの一個の饅頭を手に取り、ソヨンに渡した。
「喰えよ。腹が減ってると、余計に落ち込んじまうからさ。こういうときに空腹は良くねえぞ。またぞろ、物騒なことを考えちまったら大事だ」
「―ありがとう」
 初めてソヨンが礼を言った。
「いや、別にそれほどのことをしたわけじゃないから」
 光王は照れたように頭をかいた。
「ところで、その話に間違いはないんだろうな?」
 仮にも人殺し云々の話である。
 ソヨンは真摯な瞳で頷いた。

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