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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第4章 母の恋

 とにもかくにも、良人の女好きには、若い頃からさんざん泣かされてきた。が、何を思ったか、千福はここ十日ほどは屋敷に戻って大人しくしている。
 実のところ、千福が続けて家にいることなど滅多になく、前回戻ってきたのは、もう三ヵ月も前だ。その間、数回は帰ってきたのだが、夜を過ごすことはなく、夕刻にはあたふたとどこかへ行ってしまう。
 もとより、その行き先がどこぞの側妾のところ以外にあるはずがない。ここのところの千福は確かに常軌を逸していた。以前はもう少しマシで、ひと月に何回かは帰ってきて、自宅にも二、三日は滞在していたものだ。よほど夢中になれる女でもできたのかとチェギョンは探りを入れてみたが、結局、何も出てこなかった。
 大抵の外出に連れてゆく執事を自邸に置いて出かけてゆく―つまり執事の口から女の居所がチェギョンに洩れないように用心しているのだ―ことからも、良人がこれまでになく周到に女を隠しているのだと知れる。良人はよほどその新しいお宝に執心しているのだ。
 しかし、どういう風の吹き回しか、千福は今日も屋敷にいる。これは実に愕くべき事実であった。まあ、良人がこんな風に借りてきた猫のように鳴りを潜めているときは、逆に用心した方が良いという経験則もあるにはある。
 以前、そう、十年も昔のことだ。良人の隠し女がひそかに出産したという話を知人から聞いた。世の中には物好きというかお節介な者はいるもので、わざわざ嫉妬深いと評判の妻の許に〝どこそこに、あなたの亭主の妾がいて、男の子を出産したそうですよ〟とご親切にも知らせにきたのである。
 知らなければ、そのままにもできたが、生憎と知ってしまったからには捨て置けない。チェギョンは別邸に人を送り(何とその知人は判りにくいだろうと地図まで書いてくれた!)、その生まれたばかりの赤児を女から取り上げた。
 どうせ放っておけば、千福が適当な家に里子に出すであろうことは判っているが、仮にも柳家の男子とあれば、慎重を期する必要がある。結局、その子は地方の山寺に多額の喜捨をつけて入れた。たとえ他家に入っても俗世にあれば、いつ何時、千福の気が変わって柳家の跡取りに据えると言い出すか知れたものではない。

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