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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第4章 母の恋

 が、部屋に入ると、良人は年増の女中に手伝わせて、いそいそと着替えている最中であった。三十半ばほどで、この女の亭主も同様に柳家に仕えている。大人しいが、気働きのできるところがチェギョンも気に入り、重宝していた。 
「どうなさいましたの? 急なお出かけですか?」
「ウ、ウム」
 千福は何故か、チェギョンを見ると、ばつの悪そうな表情になった。
 ははーんと、彼女は内心、頷く。そろそろ、いつもの虫が起きたのだ。
「少しご相談したいことがあったのですけれど」
「そ、その相談とやらは、厄介事か?」
「別に面倒事というわけではありませんが」
「時間は必要か?」
 明らかに長居はしたくなさそうである。
 チェギョンは溜め息をつき、頷いた。
「大切なことですので、時間は必要でしょう」
「そなたらしくもない、やけに持って回った言い様だな。どうしたのだ、春泉がどうかしたのか?」
「いいえ、春泉についてではありませんわ。もっとも、あの娘に関しても、幾つかは話しておかなければならない必要はあるかと思いますけれど、今日の話というのは、陳執事(ソバン)のことです」
「陳執事?」
 千福は意外そうに眼をまたたかせる。
「執事に何か問題でも?」
「ですから、今日は旦那さまがお急ぎのご様子なので、お話はできないでしょう」
「ええい、勿体ぶった言い方ばかりするでない。執事がいかがしたのだ?」
 千福が苛立たしげに言うのに、彼女はまた溜め息をついた。
「陳執事が昨夜、私を訪ねてきて言うには、そろそろ自分は引退し、後を息子に譲りたいと申すのです」
「なに、陳執事はまだ六十にもならんだろう。あれは儂の父の代から執事をしているから、我が家のことは何でも心得ている。倅も悪くはないが、父親ほどの機転は回らぬぞ。いきなり任せて大丈夫なのか?」
 この話題も千福にとっては予期せぬものだったようだ。

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