淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第5章 意外な再会
その言葉で、春泉はすべてを悟った。
「―汚い」
光王が思わず伸ばそうとした手を、春泉は強い力で振り払った。
「穢れた手で私に触らないで」
大粒の涙が溢れた。
そうなの? と、春泉は我が身に問いかけた。本当に、たったそれだけのことだと言い切れるの?
それだけのことだと割り切れるのなら、何故、私はこんなに哀しくて、やり切れないのだろう。
ああ、また、お母さまのいつもの悪い癖が出て、光王はそんなお母さまの言いなりになるような類の―軽薄な男にすぎなかった。そういう風に達観できないのだろうか。
一方、光王は唇を痛いほど噛みしめていた。あまりに強く噛んだためか、口中に鉄錆びた味がひろがった。
自分が春泉にこんな表情をさせることを、彼女を泣かせることが許せない。自分が自分で許せない。
判っていたことだ。春泉がすべてを知れば、きっと自分(光王)を軽蔑し、彼女に嫌われてしまうだろうことも。全部を覚悟の上で、俺はここに来た。
惚れた女を泣かせるなんて、俺はやっぱり最低最悪の男だ。
自分が〝暗殺者光王〟であることに、これほど抵抗を憶えたことは、かつて一度たりともなかった。
もし、自分がただの男であれば、今すぐ、この場から春泉を攫っていただろう。彼女の父親が何をしようと、所詮、娘である彼女には関係のないことなのだ。悪逆非道な父親などには眼もくれず、春泉を奪い去り、誰も二人を知らない遠い場所で彼女と暮らしただろう。
どうして、俺には、それが許されない?
十七年の人生で初めて好きになった女には指一本触れられない。挙げ句にその母親と寝て、父親を殺さなきゃならないんだ!?
彼は理不尽な怒りに囚われた。
「あなたって本当に最低。―汚いわ」
春泉の声が耳を打ち、彼は現実に引き戻された。
「それは―どういう意味だ」
光王は春泉の投げつけた言葉の意味を知りながら、訊ねずにはいられなかった。
「言葉どおりの意味よ」
春泉もまた唇を痛いほど噛みしめる。
「―汚い」
光王が思わず伸ばそうとした手を、春泉は強い力で振り払った。
「穢れた手で私に触らないで」
大粒の涙が溢れた。
そうなの? と、春泉は我が身に問いかけた。本当に、たったそれだけのことだと言い切れるの?
それだけのことだと割り切れるのなら、何故、私はこんなに哀しくて、やり切れないのだろう。
ああ、また、お母さまのいつもの悪い癖が出て、光王はそんなお母さまの言いなりになるような類の―軽薄な男にすぎなかった。そういう風に達観できないのだろうか。
一方、光王は唇を痛いほど噛みしめていた。あまりに強く噛んだためか、口中に鉄錆びた味がひろがった。
自分が春泉にこんな表情をさせることを、彼女を泣かせることが許せない。自分が自分で許せない。
判っていたことだ。春泉がすべてを知れば、きっと自分(光王)を軽蔑し、彼女に嫌われてしまうだろうことも。全部を覚悟の上で、俺はここに来た。
惚れた女を泣かせるなんて、俺はやっぱり最低最悪の男だ。
自分が〝暗殺者光王〟であることに、これほど抵抗を憶えたことは、かつて一度たりともなかった。
もし、自分がただの男であれば、今すぐ、この場から春泉を攫っていただろう。彼女の父親が何をしようと、所詮、娘である彼女には関係のないことなのだ。悪逆非道な父親などには眼もくれず、春泉を奪い去り、誰も二人を知らない遠い場所で彼女と暮らしただろう。
どうして、俺には、それが許されない?
十七年の人生で初めて好きになった女には指一本触れられない。挙げ句にその母親と寝て、父親を殺さなきゃならないんだ!?
彼は理不尽な怒りに囚われた。
「あなたって本当に最低。―汚いわ」
春泉の声が耳を打ち、彼は現実に引き戻された。
「それは―どういう意味だ」
光王は春泉の投げつけた言葉の意味を知りながら、訊ねずにはいられなかった。
「言葉どおりの意味よ」
春泉もまた唇を痛いほど噛みしめる。