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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第5章 意外な再会

 冗談に紛らせてしまおうとする光王の顔に、一抹の翳が差したのにも春泉は気づかない。何しろ、異性と二人だけで、ここまで親密な距離で接したことなどないので、もう殆ど混乱状態になっている。光王評しての〝箱入り娘〟というのは、あながち間違ってはいない。 
 俺は最低の男だな。この時の光王の心の呟きは春泉には届かなかった。
「失礼ね、人をからかうのがそんなに愉しいの!?」
 バッチーン。
 派手な音を立てて、光王の頬が鳴った。
「大体、うちの屋敷に何の用があって来たの?」
 光王の頬には紅い手形がくっきりはっきりとついている。紅くなった頬を押さえながら、彼は露骨に顔をしかめた。
「随分なご挨拶だな。それが、人をいきなり殴った挙げ句の言いぐさか?」
 光王が揶揄するように言ったその時、春泉にハッとしたような表情が浮かんだ。その可愛らしい面から一瞬にして笑みが消える。
「もしかして、あなた―、お母さまの部屋から出てきたの?」
 春泉の瞳に警戒の色が濃くなった。
 春泉は光王の美麗な面をまじまじと見つめた。彼女の視線が光王の全身をゆっくりと辿る。
 最初の出逢いとは異なり、乱れた髪、少し上気した顔。しどけなく開いたチョゴリの衿許。
 これだけの痕跡を見せられては、奥手な春泉にも、光王が母の部屋で何をしていたのかは想像がつく。
 母のいつもの癖が出たのだ。そして、あろうことか、光王がその相手を務めた―つまりは、それだけのことだ。
 そういえば、と、春泉は今更ながらに思い出していた。初めて光王に出逢った時、彼は転びかけた春泉を支えてくれようとし、その手を振り払った。
 あの日、彼に感じた生理的嫌悪感の原因を悟った時、春泉は改めて思ったものだ。光王は母が寝室に招く若い愛人たちとほぼ同じ年代であり、いかにも母が好みそうな色香溢れる美少年であることを。
 もう隠せないと、光王自身も腹を括ったようだ。
「こちらの奥さまが耳飾りをお買い上げ下さるというんで、お部屋の方までお持ちしたんだよ。こう見えても、俺の仕事は小間物売りだからな」

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