淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第1章 柳家の娘
まあ、母のように無理に流産させたり、折檻したりするよりはよほどマシだとは思うが、いずれにしても、千福の行状も母と似たり寄ったりで人の道にはおよそかけ離れていた。
留守がちの父に代わり、家政を任されているのは母であり、柳家では〝奥さま(マーニン)〟は旦那さまである千福よりも使用人たちから畏怖され、絶対的な権限を持つ。使用人に対する扱い―過ちに対する罰も辞めさせるのもすべて母の采配一つにかかっているのだ。
そんな状況で、彼らが母にとって余計なことを父に告げるはずもない。隷民(チヨンミン)である彼等はあまりにも無力だ。持ち主にとって彼等は財産の一つと見なされ、その意思のままに売買される対象ともなり得る。
春泉にとっては、父も母もどちらもが軽蔑と嫌悪の対象でしかなかった。屋敷内で心を許せるのは、乳母の玉彈だけだった。
今も玉彈は春泉の後ろで震えているだけで、これではどうも主従逆のようではあるが、気の弱いところも含めて、春泉はこの乳母を大切な存在だと思っている。
しっかり者の娘が母親を守らなければと思う心情に似ているかもしれない。
「生憎と、私はこれでも宝飾品については少しばかり見る眼を持っています。おじさんが私に売りつけようとしているのは、たった今、おじさんが私に言った値段の半分もしないはず。幾ら何でも、それは少しやり過ぎではありませんか?」
凄む男に少しも臆さず、春泉は相手の眼を見据えて堂々と言った。
その怯まぬ態度が余計に男の癇に障ったらしい。男が品物を並べた台の向こうから往来へ出て、春泉に近づいてくる。
「黙って聞いてりゃア、本当に言いたい放題言ってくれるじゃねえかよ。うら若いお嬢さんだと思って、甘い顔してやってたら、調子に乗るんじゃねえよ、ええ?」
男が喚き、腹立ち紛れに春泉の身体を突いた。それは流石に彼女も予期していなかった行動だった。弾みで痩せっぽちの春泉の身体はよろけ、後方へと倒れそうになる。
その刹那、背後から春泉の身体を抱き止めた逞しい腕があった。愕きに声もない彼女をそっと脇へやり、大柄な男が露天商の前に仁王立ちになった。
留守がちの父に代わり、家政を任されているのは母であり、柳家では〝奥さま(マーニン)〟は旦那さまである千福よりも使用人たちから畏怖され、絶対的な権限を持つ。使用人に対する扱い―過ちに対する罰も辞めさせるのもすべて母の采配一つにかかっているのだ。
そんな状況で、彼らが母にとって余計なことを父に告げるはずもない。隷民(チヨンミン)である彼等はあまりにも無力だ。持ち主にとって彼等は財産の一つと見なされ、その意思のままに売買される対象ともなり得る。
春泉にとっては、父も母もどちらもが軽蔑と嫌悪の対象でしかなかった。屋敷内で心を許せるのは、乳母の玉彈だけだった。
今も玉彈は春泉の後ろで震えているだけで、これではどうも主従逆のようではあるが、気の弱いところも含めて、春泉はこの乳母を大切な存在だと思っている。
しっかり者の娘が母親を守らなければと思う心情に似ているかもしれない。
「生憎と、私はこれでも宝飾品については少しばかり見る眼を持っています。おじさんが私に売りつけようとしているのは、たった今、おじさんが私に言った値段の半分もしないはず。幾ら何でも、それは少しやり過ぎではありませんか?」
凄む男に少しも臆さず、春泉は相手の眼を見据えて堂々と言った。
その怯まぬ態度が余計に男の癇に障ったらしい。男が品物を並べた台の向こうから往来へ出て、春泉に近づいてくる。
「黙って聞いてりゃア、本当に言いたい放題言ってくれるじゃねえかよ。うら若いお嬢さんだと思って、甘い顔してやってたら、調子に乗るんじゃねえよ、ええ?」
男が喚き、腹立ち紛れに春泉の身体を突いた。それは流石に彼女も予期していなかった行動だった。弾みで痩せっぽちの春泉の身体はよろけ、後方へと倒れそうになる。
その刹那、背後から春泉の身体を抱き止めた逞しい腕があった。愕きに声もない彼女をそっと脇へやり、大柄な男が露天商の前に仁王立ちになった。