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日曜日の夜は

第1章 指輪

 それはすでに決まっていた。この混沌とした心に終着点がないと、わたしは知っていた。

 夜更けの海沿いを走る。細長い道路に車のライトがさすだけで、わたしたちの未来を照らすには弱すぎた。

「寝てたんじゃないの」

 ハンドルを握りしめたまま、わたしは隣の彼女に語りかけた。

「ううん」眠たげにうめき声をもらし、彼女が長い髪をかきあげた。

「もう、そろそろ着くよ」

「えっ」声を上げるとともに、彼女が背筋を伸ばした。

「はやいね」微苦笑まじりにつぶやく彼女が、こちらを向いた。

「だって、寝てたから」

「そうだけど」

 きまずい空気が流れた。

「そのうちご主人にバレるよ」

 わたしの言葉に、彼女はふふふと笑って言いそえた。

「それって、妬いてるの」

 そう言う余裕のある笑みが、たまらなく愛しいんだ。

「まあ、僕が妻子もちでなくてよかったけど――」

「ええ?」怪訝そうにわたしをのぞきこんで、彼女が笑った。口の端が少し上がる、その上品な笑みを横目で見て、わたしはほっとした微笑を浮かべた。

「昔と変わってなくて、なんか安心した」

「……そんなこと言われると、帰りたくなくなるよ」彼女の声音が暗くなる。

 このまま消えちゃう?

 思わず胸のうちでそんなことを呟いていた。

 この時間が失われることに恐怖を覚えた。だから声に出して言えなかった。漠然とした将来を想像し期待するよりも、君と過ごす「今」を感じていたい。

「あーあっ」彼女がため息まじりに声を吐き出した。

「明日なんか、来なければいいのに」

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