テキストサイズ

日曜日の夜は

第2章 夕立

 土曜日の午後。

 ホットケーキが食べたくて、近所のスーパーへ牛乳を買いに出かけた。

 空はいまにも雨が降りだしそうな、くすんだ色をしていた。夏の日は夕暮れ時でも明るく、町一面をおおう灰色の雨雲は、陽がかすかに通って、ところどころが黄色っぽく光っていた。もうすぐ降り出すだろう。

 大気は水分を含み、汗と一緒になって、わたしの体にまとわりつく。

 大抵のひとたちは、この感触が嫌いという。でもわたしはこんなじとじとした空気が好きだ。湿り気のある空気が、肌に吸いつき、自分と空間を一体にさせてくれる。そして雨が降れば、雨粒とともに嫌な部分が流され、自然と優しい気持ちになる。そんな心地がするのだ。

 ただし、スーパーのビニール屋根にたまった雨水が頭皮を狙って落ちてくる、この瞬間、この不意打ちにはいつも驚かされてしまうが。

「ひゃあっ」とうとう雨が降り出した。

 濡れた身体を適当に手で拭って、スーパーへ入った。冷房の風が湿った肌を吹きつけてくる。体が冷えを気にして、速やかに牛乳だけを購入し店を出た。

 外へ出ると、雨が激しくなっていた。立ち尽くすしかない。スーパーのビニール屋根がバチバチ鳴って、あたりは水煙が立ち、白くかすんで見える。

 顔に雨のしぶきがかかり、ジーンズの裾も濡れてしまった。

「困ったなあ」

 傘がない。わたしはレジ袋を胸に抱えたまま、空を仰いだ。

「すぐやむでしょう」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ