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第8章 「俺だけだ」


 四年前。

 矢代千尋は戌原西地区の廃墟で生活をしていた。

 そこは元々絵画や彫刻のフェイクを売る偽美術商の店だったが、何年も前に店主が借金から逃れるために手放した場所だった。

 持ち主がいなくなった建物に浮浪者が居つくのは戌原西地区でよくある話だ。

 しかし、その場所を最初に手に入れたのは千尋ではなかった。

 もう彼自身さえ顔を覚えていない40代の男――そいつが最初の所有者だった。

 ならば、なぜ千尋がその場所で生活をすることができたのか。

 答えは簡単だ。

 邪魔者である所有者を排除すれば何の問題もない。

 弱者が強者に虐げられるという言葉を体現する戌原西地区では、そんなものは常識にも等しかった。

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