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アルカナの抄 時の掟

第8章 「隠者」正位置

目を覚ますと、肩、背中、腰が痛かった。

「あー……」
オヤジか、と心の中でツッコミながら身を起こす。この硬い椅子は、眠るのにはまったく適していない。

「みんなこんなところで寝てるんだ…」
カオルと同じく、ここで一晩過ごしたらしき人々のうち、何人かはすでに起き、ぼんやりと座っていた。まだ寝ている人もいた。

…ここで過ごす人は、どんな人たちなのかな。

と、昨日の神父がやってきて、パンとミルクを配り始めた。だがカオルは、神父が自分のところへ来る前にそっと抜け出し、教会を後にした。

自分には、帰る場所がある。望めば満足に食事をとることもできる。自分はここにいるべきじゃない、カオルはそう思ったのだ。

…レイミエ帝国へは、どれくらいだろう。

教会周辺の道は、なんとなく覚えている。不安はあったが、とりあえず記憶をたどり、キョロキョロしながら歩いていると、鋭い声が飛んできた。

「皇妃!」
馬に跨がったヴェキが、カオルの方へ駆けてくる。目の前に降り立つと、珍しく、少し青ざめた様子でカオルを叱った。

「まったくあなたは…!国外に一人でいるのが、どれほど危険かわかっているのですか!」

その通りだった。一人でフラフラと外へ、しかも国外へ出てしまったことが、どんなに迂闊だったか…今はわかる。一国の妃がすることではなかった。

「ごめんなさい」
カオルは頭を下げた。だがその声は、弱々しくはなかった。顔を上げ、まっすぐにヴェキを見つめる。

「心配かけてすみませんでした。もう大丈夫です。これからは、“第一”皇妃らしくきちんとつとめを果たします」
カオルが言うと、ヴェキは目を見張った。

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