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アルカナの抄 時の掟

第8章 「隠者」正位置

「私は――」
真っ暗な部屋で、カオルが口を開いた。膝を折り、目を閉じて祈るように手を合わせている。

「――ダメな恋人です。アル…彼を信じられないなんて、恋人の資格ありません」
そこまで言うと、せきを切ったように一気に話し始める。

カオルは、愛する人が自分のほかに恋人をつくってしまったこと、そして彼を信じることができなくなってしまったことを告白した。

「あの人の心がわかりません。私は、嫉妬を抱いています。身勝手な感情で愛する人を信じられずにいるんです…」


これが、私の罪。


「…悲しいんです。なにも話してくれなかったことが…」
すべて話し終えると、ポツリと呟いた。

私には…アルバートを支えることはできないのかな。


「いいえ」
どこからか、声が響いた。

「――間違いなくあなたは、今でも彼を信じていますよ」
声の主は続けた。

「あなたは言いました。“なにも話してくれなかったことが悲しい”と。それはあなたが、彼を信じているということです。彼の行動の裏には理由があったのだと」

カオルは、はっとした。確かにその通りだ。“信じる”というより“期待する”という表現の方が近いのかもしれないが。

自分でもまるで気づかなかった…。でも、じゃあ私は、なんでこんなにモヤモヤしてるんだろう。

「本心がわからずとも信じる力を、あなたはもう持っています。そして今、あなたはその事実に気づきました。あとは、それを認めるほんの少しの勇気を。自分を信じるのです」

「…はい」

「――あなたの罪を赦します」

「ありがとうございます…」
ふっ、と心が軽くなるのを感じた。

懺悔室を出ると、急に明るいところへ出たせいか、まぶしくて目がくらんだ。ようやく明るさに慣れてきたカオルは、どこで寝ようかと辺りを見渡す。

と、長椅子に座ってぼそぼそと話す二人組が目に入った。どちらもフードを被り、その影になって目もとがよく見えない。すると二人が突然立ち上がった。じろじろ見ていたのが気づかれたかと思ったが、話し終えただけのようだ。

顔がちらりと見える。二人のうちの一人は、なんとなく見覚えのある顔なのだが、どこで見たのか思い出せない。

そうこうしているうちに二人は出ていってしまい、まぁいいや、とカオルは眠ることにした。

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