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アルカナの抄 時の掟

第10章 「世界」正位置

そこへ、誰かが近づいていく。えりあしが肩に触れるくらいの、男性にしては少し長い茶髪。着ているジャージには、“HANABUSA AKIRA”とある。

相手は、背を向けているため気づかない。“英 暁”と、どこかで見た字体で書かれたラケットらしきものを片手に、もう一方の手で頭をかく。

「…お待たせ。遅くなってごめん」

知ってる声に、ぴたりと動きを止めた。見上げていた顔を戻してゆっくりと振り向いた。そして、目を見開く。

目の前に立っているのは…。


「名字、二文字じゃなくて悪いけど」
困ったように微笑む彼。やわらかい笑み。この表情を、私はよく知ってる。

「ばか…ほんと、遅いよ」
驚いた顔が、だんだんゆるんで笑顔に変わっていく。目には、散々流した涙が、じわじわとたまっていく。

「ごめんね。…ただいま」

ずっと待ってた。私の愛した人の、その言葉を。


「…おかえり」
くしゃりと笑うと、かけ寄る。懐かしくて温かな胸に、顔をうずめた。





               完
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