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アルカナの抄 時の掟

第8章 「隠者」正位置

「元気がなさそうだの」
突然声をかけられ、びっくりしてキョロキョロとしていると、階段を降りてきたらしい左大臣が横に立っていた。

「近っ!!」

そんなすぐ隣に立たなくても。っていうかそれに気づかなかった自分よ…。

「悩むがよい。あちらへ戻ったとき、後悔せぬように」
左大臣は口もとに扇子をあててそう言うと、そのままどこかへ歩いていく。

……え?

「今なんて…?」

左大臣はカオルの問いには答えず、去っていった。





離れに戻ると、ヴェキの姿は見えなかった。寝室へ入ると、なんとなくノートを開けた。

『一、まず計画せよ、二、すべてに余裕を持つ、三、落ちついて行動』

懐かしい。ノートの見返し部分に、自分で書いたものだ。

「…そう。落ち着いて行動しなくちゃ…」

ゆっくり考えながら、慎重にね。円満に終わらせるために…状況を見て、アルバートに合わせなくちゃ。

カオルは1ページ目に目を写す。

『レイミエ帝国』

復習も兼ね、ヴェキの講座でとっていたノートを書き写したものだ。これだけ書いて、カオルは眠ってしまった。それからしばらく、このノートを開いてすらおらず、まったく進んでいない…。

「ん?」

よく見ると、その横に身に覚えのない文字がある。

『もう飽きちゃったの?』

アルバートの字だ。…びっくりした。いつの間に書いたんだろう。


次のページをめくる。…と、ページの端に、『愛』と書いてある。

「………?」

さらにページをめくる。ほぼ同じ位置に、『愛』と書かれていた。ノートを手に持ち、パラパラ、とページを流す。


『愛』 『し』 『て』 『る』


またレトロな、とか、よく全ページに書いたなあ、なんて思いながら。

「泣けてきちゃうなぁ…」
くすりと笑い、涙でかすむ目を押さえる。悲しいのではない。

…懐かしい。あの頃は、周りが見えてなかった…だけど。

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