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アルカナの抄 時の掟

第9章 「審判」正位置

カオルが宮殿外に出ていってまもなくのこと。アルバートは政務室で一人、思案にふけっていた。簡素なデザインの机を前に、これまたシンプルな椅子にアルバートは腰掛けている。仕事は主にここで行っていた。

カオルが何度か皇帝の間へ様子を見に行っていたとき、アルバートはいつもここにいた。一度ヴェキに案内されていたのだが、カオルはこの部屋の存在をすっかり忘れていた。カオルにはほとんど縁がないので、無理もないかもしれない。

仕事が終わっていても、アルバートはよくここにいた。最近は考え事が多い。肘をついたり、背もたれに寄りかかったり、指を組んで顎をのせたりを繰り返している。


ダイナスは無関係…本当だろうか。だが、確かにフレアはそう言った。

先ほどのことだ。ダイナスは皇妃暗殺未遂の一件に関与していない、だから自分を妃に迎え機嫌や様子をうかがうのは無意味だと、彼女は言った。

では誰が首謀者かと聞けば、彼女は答えない。それでも強く聞くと、ただ一言だけ――より大きなものが関わっている、と。それ以上は言わない。

…かなり抽象的だ。やはり、父をかばっているのか。それとも僕を試しているのか。僕が主君としてどう解決するか、その力量を。その器を。

…いずれにしても、自身で答えを見つけるしかないようだ。

アルバートは深く息を吐くと、指を組み直す。


確かに、黒幕は右大臣ダイナスだと一言で片づけるには、節々妙だとは思っていた…。特に引っ掛かるのは、セレナが所持していた毒だ。

カオルや自分を狙うのに、斬りつけるだけでなく、その刃に毒を塗るという暗殺者のようなぬかりなさ。真似ただけだろうと言われれば、そうなのかもしれない。だが、正体を知られるや否や、彼女は毒を飲もうとした。

あれは、自身の口封じであり、しくじった自分への罰とも考えられる。完全な忠誠心の表れだ。


向かう先は、誰だ?

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