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アルカナの抄 時の掟

第5章 「皇帝」正位置

翌日、再び重臣たちが召集された。自国が攻められているという国の一大事にしては、随分とのんびりした対応だ。

「なぜすぐに召集をかけなかったのだ」
右大臣が、ギロ、と左大臣をにらんだ。

「だって昨日は一回集まってるし~どうせわしらにはなんもできんしの~」

何度も言うが、左大臣の歳は40前後だ。

「兵の徴集を命じることはできるだろう」
右大臣派の重臣が言った。

「そんなに訓練されておらん兵じゃがのー」

こんな人が左大臣で大丈夫なのだろうか。この場の誰もが思った。正直、カオルも思った。

…実はカオルもこの会議に参加していた。自ら望んだのだ。ヴェキも、それもまた皇妃の務め、と許可した。他の誰も文句は言わなかった。

…右大臣派を除いて。

「おや?これは皇妃殿下。食堂ならこちらではありませんぞ?」
カオルの存在に気づいた右大臣が言った。ヴェキが眉をひそめる。

「私も皇妃として会議に参加します」

「そうでしたか。これは失礼。てっきり食堂と間違われたのかと」
右大臣を取り巻く連中が笑うが、カオルは無視した。と、右大臣が上げていた口角を戻した。


「この際ですから申し上げますが、皇妃。事件のあった前の晩、――お会いしましたとき、何をなされていた?」
まるで尋問かのような口調だった。

「なにも。月を眺めて考え事をしていただけ」

「…ほう。あんな夜更けに、外で?」
大臣は目を細める。

「外に出たかったから。悪い?」

外野は静かに聞いていた。

「…疑いたくはありませんが、――よもや、侵入者の手引きをしていたのではありませんな?」

「なっ…」
カオルは言葉を失った。確かにセレナとは仲が良かった…と思っていた。だが、自分は命を狙われたのだ。まさか自分を襲った者との繋がりを疑われようとは。

「そして、会議に参加して情報収集。隙を探し、今度こそ確実に陛下のお命を奪わんとしている…違いますかな?」
鋭い目が、カオルを捕らえた。カオルはここで、はっきりと自分の敵を認識した。

そんなことするわけない!

カオルが反論しようとしたとき。

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