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アルカナの抄 時の掟

第6章 「月」正位置

わずかな明かりに照らされ、その人物の顔が見えた。フレアだった。フレアが何かぼそぼそと言い、もう一人の人物が逃げるように去っていった。

「フレア…?」

「…皇妃さま」
フレアは静かに、こちらに向き直る。

「こ、こんなところで会うなんて思わなかった~」

お、大人の時間…ってやつ、かな。

「…人と会っておりまして。ただ今自室へ戻るところです」

「そっか。私もちょっと涼んでた。風邪引くといけないし、そろそろ帰ろうかな」

「冷えて参りましたし、その方がよろしいかもしれませんね。足元にお気をつけてお帰りになってくださいね」

「ありがと。…じゃあね」
カオルはきびすを返し、早足で自室へ向かった。





部屋には誰もいなかった。やっぱり、さっきの人は…。

アルバートとフレアが…?いやいや、そんなまさか。

だが、それならば、色々と説明がつく。二人とも、同じ時間帯に、同じ場所から出てきたのだ…。それも、何度も。

ふと、フレアの言葉を思い出す。“思わぬところに敵はいるもの”。彼女はそう言っていた。まさかそれは、彼女自身を指していたのだろうか。

うそ…。アルバートとフレアが…?

そう考えるのが自然だったが、信じたくなかった。それに。

…約束したもん。信じるって。

そう、まだ決定的ななにかがあったわけでもないのだ。顔を見ていないのだから。カオルはアルバートを信じることにした。フレアだって恋人くらいいても不思議ではないし、あのとき姿を見かけなかったからと言ってアルバートと結びつけるのは、安直すぎる。

こんな時だし、今は仕事してるはず。あんなところにいるわけないよ!

「…なんかお腹すいたなぁ。アルバート、仕事終わったかな」
嫌な予感を振り払うように、カオルは立ち上がる。そして会えないとわかっていながらも、いつものごとくアルバートを迎えに出ていった。





           第六章 完

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