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アルカナの抄 時の掟

第7章 「恋人」逆位置

右大臣の邸宅の、ある一室。右大臣ダイナスのもとに、若い男が呼ばれていた。

「調子はどうですか」
椅子に腰を掛けながら、若い男が笑みを浮かべて言った。男の向かいに座るダイナスは、苦い顔をすると、手にしていたグラスに口をつけた。

「…お前の方こそどうなんだ」

「まぁ、ぼちぼちですよ」

「うまくいってもらわないと困る」
まだ酒の残ったグラスをテーブルに置き、眉間にしわを寄せた。

「わかってますよ。父さん」
ダイナスを父と呼んだ男は、女性のような美しい顔で微笑むと、開け放たれた窓に目を向けた。夜が更け、いつものように星が輝きを見せていた。中でもひときわ輝く星がある。

「必ず成功させろ。いいな」
ダイナスが念を押すように言った。男は相変わらず外に目を向けていた。

「…そろそろいいですか」
視線を元に戻し、ダイナスへ言った。ダイナスは無言だった。

「ではまた、父さん」
男は立ち上がり、出ていった。




日が登り、ところ変わって宮殿内。カオルは珍しくアルバートよりも早起きしていた。アルバートと話をするため、何がなんでも起きると決め込んで無理矢理目をこじ開けたのだ。

アルバートはまだ眠っているため、待つほかはない。ベッドでは二度寝してしまいそうだったので、カオルはソファーに移動する。

こんな大変なときこそ、妻である私がしっかり支えなきゃね!

毎日毎日、アルバートは自分の時間もないほど皇帝の仕事に従事している。フレアはそのままでいいと言ってくれたが、やはり自分も何かしたかった。というより、少しでもアルバートの負担を減らしたかった。見ていられないのだ。

自分より遅く寝て、早く起きるということは、睡眠時間は自分より短いはずだ。それで大丈夫なのだろうか。食事はきちんと摂っているようだが…心配だった。

それに、それとなくあのことも…確かめたい。

カオルは、フレアの姿を思い浮かべていた。

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