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アルカナの抄 時の掟

第7章 「恋人」逆位置

「さあ、そろそろよい時間ですし、休みましょう。ベッドはあちらです」
奥の部屋を示す。そこが寝室のようだ。

「あっ、そうですね。今日はありがとうございました。…おやすみなさい」

「おやすみなさい。なにかあれば、いつでも呼んでください」

ヴェキに笑顔を返すと、寝室へ入る。寝室は狭くも広くもなく、シンプルなベッドと、ランプつきのチェスト、小さなテーブルを置く十分なスペースがある程度だった。

寝巻きに着替え、見慣れないベッドに横たわる。今日はなかなか寝つけないだろうと思ったが、意外にもすぐに眠りにつけた。




翌朝、まったく見知らぬ部屋で目を覚ますと、そうだった、と思い出す。ここはヴェキの離れの一室だ。

ベッドから起き上がると、着替えて、昨晩最初に案内された部屋へ出た。ヴェキがテーブルに座り、なにやら書類に目を通していた。

「おはようございます。よく眠れましたか?」
カオルに気づいたヴェキが、顔をあげて言った。

「はい。とてもよく」

「それはよかった」
そう言うと、再び書類に目を落とす。

「食事は、いつも通りですか?」

「どちらでも。…持ってこさせましょうか?」

仕事の邪魔しても悪いし、持ってきてもらうのもなんだかなぁ。

「いえ、大丈夫です。食堂で食べます」

「わかりました」


ヴェキの離れを出て、いつもの食堂で朝食をとる。…昨日なにが起こったか、他の者も知っているのだろうか。なんだか、視線がチクチクと刺さる。

居心地の悪さに耐え兼ねたカオルは、手早く朝食を済ませて食堂を出た。

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