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アルカナの抄 時の掟

第7章 「恋人」逆位置

…あれ、ヴェキさんってこんなに髪長かったんだ。

髪を下ろしていると、より長く見える。髪が濡れているせいもあるかもしれない。肩にかけているタオルに、ギリギリ収まるくらいの長さだった。

「入浴はもう済んでますよね?」

「はい」

「もう休みますか?」

「…いえ、多分眠れないと思うので、もう少しこのままで」

「そうですか」
ようやく片づけ終えたヴェキが言い、座った。

「ヴェキさん」

「はい」

「…もしかして、なにか知ってます?」
ヴェキならもしや、と尋ねてみる。彼は、アルバートが最も信頼を置いている人物だ。

「…すべてかどうかはわかりませんが、知っています。ですが、私からお話しすることはできません」
やっぱり、と舞い上がったのを、最後の一言で突き落とされる。

「なんでですか!」

「陛下のご意思です。また、第三者である私から聞くのと、陛下ご自身から聞くのとでは、意味が変わってくるでしょう」

ヴェキの言いたいことは、カオルにも理解できる。だが、その本人が話してくれないから、こうして聞いているのだ。

「今は、ただ陛下を信じてください。あなたの身の安全のためになさっていることなのです」

信じる…。

「…そういえば、私のためって言ってたっけ」

…そうだ。アルバートはいつも、私を守ってくれてた。…あのときだって。

「私、信じます。…約束したから」
自分に言い聞かせるように言う。信じるというのは、案外難しい。それを見透かしているのか、ふ、とヴェキが笑う。

「まあ、恋の試練だとでも思ってください。会えない時間にあたためる愛もあるでしょう」

こんなことも言うんだ、とカオルは思った。

「私が恋愛云々を語るのは意外ですか?」

「はい…あっ、いえ!」

「正直ですね」
なんだか楽しんでいるように見えるヴェキ。と、ふいに立ち上がった。

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