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アルカナの抄 時の掟

第7章 「恋人」逆位置

翌朝、ヴェキの離れに、慌ただしくエマがやってきた。

「カオルさま、ヴェキさま!」
ヴェキが扉を開けると、失礼します、とエマが入ってきた。

「ん…ん~?」
寝室で休んでいたカオルも、遠くで聞こえるエマの声に、目を覚ます。

「おや、何事ですか」
カオルのいる部屋へずいずい入っていくエマの背に、ヴェキが言った。

「まだ寝てたんだけど…どうしたの、こんな朝早くから」

「お集まり頂くようにと、陛下から」

「ええっ、こんな朝早くに?」
ボーッとしていた頭が、一気に冴える。

「これまた突然の召集ですね」

「その前に、カオルさまにお話がおありだそうです」

「私にだけ?…なんだろう」

カオルは急いで支度をし、出ていった。





かつてはカオルの部屋でもあった、アルバートの私室の扉を叩く。アルバートの無機質な応答が聞こえ、中に入った。

「久しぶり、だね」
重苦しい空気の中、カオルが言った。

「そうだね」

「…それで、話って?」

「うん。このあとの召集でもみんなに伝えるんだけど、カオルには先に話しておこうと思ったんだ。僕は…――」
カオルを見るアルバートの目は、なんだか少し冷めていた。


「――もう一人、妻を迎えることにした」


一瞬、自分は寝ぼけているのかと思う。だが聞き返すと、アルバートは繰り返した。…聞きたくない言葉を。

「…なんで?誰と?」

私を遠ざけたのは、このためだったの?

「ヴェキから聞いてると思うけど、この国での皇族は、複数の女性をめとることができるんだ。僕も、ある女性を二番目の妻とすることにした。それが誰かは、このあと言うよ」

「なんでって、そういうことじゃない。そういうことが聞きたいんじゃない。なんでそう決めたのかが知りたいの」

「…そうした方がいいと思ったからだよ」

「どうして?」

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