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アルカナの抄 時の掟

第7章 「恋人」逆位置

「…こんなことをしても意味はないのに」
手を動かしながら、呟くように言った。

「どうして?君の父もこうなることを望んでた」

「…ええ。だけど、あなたの真の目的に鑑みれば、これはまったく意味をなさない」
茶の入ったカップを手に、神秘的な目をアルバートへ向ける。

アルバートは、いぶかしげにフレアを見た。





…ごめん、アルバート。だめ、かも…。

流れ落ちる涙もそのままに、カオルはまだ歩いていた。だが先ほどとは違い、そこは屋外だった。

なにがあっても信じるって約束、もう守れそうにないよ…。

ずきり、と頭が痛む。

「っ……!」
立ち止まり、頭を押さえる。幸い頭痛はすぐに収まり、再び歩き出す。だがカオルはヴェキの離れへ向かうのではなく、そのまま宮殿の門をくぐり、敷地外へ出てしまった。

皇帝を信じられないなんて、皇妃失格だよね…。

街は、いつも通りのにぎやかさだった。宮殿内のことなど、誰も知らないのだろう。そんな人混みをかき分けて、カオルは進んでいく。やっと人の集団を抜けられたと思えば、そこはもう街の外れだった。

いつの間にかこんなところまで来ちゃったなぁと思いつつも、引き返す気にもならない。ぼんやりとしているうちに、気づけば太陽の位置は変わり、夕暮れ時。周囲を見渡すと、国境近くまで来ていた。

どうしようと思いながら歩いていると、遠くに、教会のような建物を見つける。それを目指して行くと、国境を越えて少ししたところに、それはあった。

近くで改めて見ると、やはり教会なのだが、少し古びた小さめのそれは、全体的には質素なものの細部まで凝った装飾が施されていた。窓からは、温かな光がこぼれている。

ここで一晩、過ごさせてもらえるかもしれない。

カオルは扉に手をかけた。





           第七章 完

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