テキストサイズ

狼と白頭巾ちゃん

第23章 選び取る明日

「おい、どうした⁈」


大きな物音に気付き、父親がライラの部屋のドアを開けると、そこには、ガックリと肩を落とし、放心している妻がいた。

異様な光景に驚き、はっとして部屋を見回すが、娘の姿は無い。


急いで妻に近寄り、声を掛けた。


「おい、どうした⁈何があった?ライラは⁈」


肩を揺するが、妻は放心したままで、しかし、何故か手だけには力がこもり、何かを握り締めている。


(紙…?)


「お、おい。ちょっとそれを見せろ!」


硬直した拳から、指を一本一本開かせ、漸く握り締めている紙を奪うと、ぐしゃぐしゃになったそれを急いで広げた。











そこには、娘ライラの字で、こう書かれていた。






『お父さん、お母さんへ

二人がこの手紙を読む頃、私はもうこの家にはいません。

とても大切な人ができました。

その人とずっとずっと一緒にいたいので、家を出る事に決めました。

理由があって、きっとその人とのことを、お父さん、お母さんには、反対されると思うから。

でも、誤解しないで下さい。

その人は、とても優しい人なんです。

私がこうすることに、反対していました。

でも、もう、離れていることが、私には出来ません。

何も言わずにいなくなってご免なさい。

ただ、今私は幸せです。

きっとこれからもずっと幸せだから、どうか、心配しないで下さい。


最後に。

どうか、お父さん、お母さん、いつまでもお元気で。

ライラより』





力を失った掌から手紙がするりと逃げ、ひらりひらりと木の葉のように揺れたあと、カサリと音を立て、床に落ちた。


開かれた窓の外からは、通りを行く人々の声が響き…。


しかし、その部屋にはただ、重い沈黙という名の静寂のみが、存在していた…。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ