狼と白頭巾ちゃん
第14章 無意識の誘惑
ライラは、走って走って、走り続けた。
長く伸びた草や、地面から盛り上がって顔を出す木の根などに幾度も足を取られ、中々前には進まない。
何度も転びそうになりながら、それでもシンの先ほどの声を思い出すと、ライラは走らずにはいられなかった。
「はっはっ…、ハァッ…‼」
ガサガサガサガサガサッ
(シンの声は震えてた!)
(シンには私の全部が見えてた‼)
思い出すだけで、堪らない気持ちになる。
(私の、姿も…!声も…!匂いまでも‼シンには見えてる)
まるで身体を包む衣服を剥がされて丸裸にされ、
それでも足りないとばかりに、ライラが必死になって隠そうとした胸の内側の、
心の一番奥底までも晒されてしまったような…。
それを思い出すと、どんなに息苦しくなっても、ライラは走らずにはいられなかったのだ。
息が上がり、苦しくて顰める彼女の目の中に、徐々に光の粒が拡がってゆく…。
唯それだけを見つめながら、彼女は走った。
「フゥ…はぁ…」
ガサガサガサガサ
その光の中に飛び込んでしまえば、シンはそこから先には出て来られない。
「ハッハッ…」
ガサガサガサガサ
…そうして少しでも、ライラはシンから逃れたかった。
「ハァハァ…ハァッ…‼」
ガサガサガササガサガサッ
そして………。
「はっ…ハァッ!…ふぅう〜…はあぁぁ〜〜……」
ガササッ
ライラは、花園に飛び出した。