狼と白頭巾ちゃん
第16章 あなたの隣で…
暗い森から一気に開けた花園ー今は花は咲いていないから野原と言ったほうが正しいだろうかーに出ると、一瞬目が眩む。
けれどもライラは構わず野原の中ほどまで、シンの手を引き歩き進めて、そこでようやく彼の手を離した。
目が光に慣れ、久しぶりの場所を目だけで見回し満足すると、次にライラはゆっくりと振り返り、シンを見た。
そこには、あの日見た黒い獣の姿。
しかし獣は、あの時とはまるで違う、やわらかい雰囲気を纏っていた。
シンの黒髪は日の光を浴びて、きらきらと青味がかった輝きを放ち、
その精悍な肢体は、余分な脂肪などまるで無く、彼の浅黒い肌の色と相俟って、まるで芸術作品のよう。
顔もすっきりと引き締まっていて、彼の背をより高く見せている。
そして、ライラが初めてまともに見たシンの顔は、彼女が今まで見てきた誰よりも美しかった。
「なんて、綺麗なの……」
大きな瞳は、まるで森を思わせるほど深い緑色をして、けれどどこまでも澄んで吸い込まれてしまいそうなほど。
鼻はすらりと高く、形良い少し薄めの唇は肌より色味も薄く、触れたら柔らかそうで。
それら全てが完璧といって良いほどに、シンと云う名の優しい心の持ち主を美しく飾っていて…。
それは、ライラが感嘆の溜め息を漏らすほどであった。