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対峙

第3章 episode 2

「実を言うとあまり覚えてない…」

「記憶喪失ってやつ?」

「…それとは違うと思うけど」

屋上の風は心地よく、今なら自分のことを光彦にすべて話せそうな気がした。

「小学生だったし、事件以外のことは覚えてるから」

医者からはショックを受けたことによる一時的な記憶障害だと言われた。
そのショックが死体を見たショックなのか、親が殺害されている事実がショックなのかボクはわからないでいた。
公開された情報には、男児は゛無傷゙と報道された。
体に残った無数の痣は、幾分か前に付けられたものだったから。
つまり虐待痕があった。
ボクはボクがひどい虐待を受けていたことを覚えている。

「虐待ねぇ…なんかドラマみたいな話だな」

「つくづく現実離れしてると自分でも思うよ」

紛れもない現実だけど。
そして孤児となったボクは、その事実を知っている今の孤児院の院長に拾われたのだ。
ボクの両親と院長は知り合いだったらしいけど、深くは聞いてない。

「なんか色々複雑なんだな」

「うん」

「でも俺は離れないから」

「…もうわかってるよ」

言葉が持つ力、もう一度しんじてみようか。

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