偽装結婚~代理花嫁の恋~
第2章 ★A women meets a man ★
由梨亜はつい、叫んでしまった。
「私にキスしたでしょ。あんなことは事前の打ち合わせでは聞かされてなかったわ」
ああ、と、三鷹は事もなげに言う。
「確かに、俺も聞いちゃなかったけどね」
「じゃあ、何であんなことしたのよ?」
ますますもって腹の立つ男である。由梨亜が瞳に怒りを滲ませると、三鷹が笑い出した。
「別にあれくらい、たいしたことじゃないだろ。あんなの、子どものお遊び程度にも入らない」
「何ですって? わ、私にはファースト・キスだったのよ」
笑っていた三鷹が肩を竦めた。
「まさか。君、もう二十七だろ? その歳でファースト・キスなんて、あり得ない」
三鷹はふっと真顔になり、由梨亜にぐっと顔を近づけた。
「じゃあ、君はもしかして、バージン?」
「なっ」
あまりに不躾な質問に、由梨亜は一瞬固まった。少しく後、バッチーンと小気味よい音が響く。
「あなたみたいにデリカシーのない男なんて、信じられない。最低」
由梨亜はもう二度と見たくもないというように三鷹から顔を背け、一人で一階の控え室に戻った。そこに行けば、担当のヘアメークが待っているはず。この重い打ち掛けを脱いで今日の報酬を受け取れば、このいけ好かない男とも縁が切れる。少なくとも、そのときは信じていた。
「参ったな」
一方、三鷹は由梨亜が去った後、彼女に打たれたばかりの頬を押さえ呟いた。
笑ったかと思えば、ふいに涙ぐんだり、そうか思えば、怒る。彼女といると、次に何が起こるか、まるで予測がつかない。くるくると万華鏡のように変わる表情を見ていると、飽きないどころか楽しい。
三鷹がこれまで付き合ってきた女たちは皆、世間でいえば一定以上の水準を満たしていた。美貌は言うに及ばず、プロポーションから知的水準さえ満たしていた。
だが、あの娘―城崎由梨亜はどうだろう。確かに頭は悪くはなそうだが、彼が今まで連れ歩いていた女のタイプとは明らかに違う。
「私にキスしたでしょ。あんなことは事前の打ち合わせでは聞かされてなかったわ」
ああ、と、三鷹は事もなげに言う。
「確かに、俺も聞いちゃなかったけどね」
「じゃあ、何であんなことしたのよ?」
ますますもって腹の立つ男である。由梨亜が瞳に怒りを滲ませると、三鷹が笑い出した。
「別にあれくらい、たいしたことじゃないだろ。あんなの、子どものお遊び程度にも入らない」
「何ですって? わ、私にはファースト・キスだったのよ」
笑っていた三鷹が肩を竦めた。
「まさか。君、もう二十七だろ? その歳でファースト・キスなんて、あり得ない」
三鷹はふっと真顔になり、由梨亜にぐっと顔を近づけた。
「じゃあ、君はもしかして、バージン?」
「なっ」
あまりに不躾な質問に、由梨亜は一瞬固まった。少しく後、バッチーンと小気味よい音が響く。
「あなたみたいにデリカシーのない男なんて、信じられない。最低」
由梨亜はもう二度と見たくもないというように三鷹から顔を背け、一人で一階の控え室に戻った。そこに行けば、担当のヘアメークが待っているはず。この重い打ち掛けを脱いで今日の報酬を受け取れば、このいけ好かない男とも縁が切れる。少なくとも、そのときは信じていた。
「参ったな」
一方、三鷹は由梨亜が去った後、彼女に打たれたばかりの頬を押さえ呟いた。
笑ったかと思えば、ふいに涙ぐんだり、そうか思えば、怒る。彼女といると、次に何が起こるか、まるで予測がつかない。くるくると万華鏡のように変わる表情を見ていると、飽きないどころか楽しい。
三鷹がこれまで付き合ってきた女たちは皆、世間でいえば一定以上の水準を満たしていた。美貌は言うに及ばず、プロポーションから知的水準さえ満たしていた。
だが、あの娘―城崎由梨亜はどうだろう。確かに頭は悪くはなそうだが、彼が今まで連れ歩いていた女のタイプとは明らかに違う。