
偽装結婚~代理花嫁の恋~
第2章 ★A women meets a man ★
「あなたの話を聞くですって? 何で私があなたの話を―」
三鷹は由梨亜は最後まで言わせなかった。男にしては長くて細い指が由梨亜の唇にそっと押し当てられたからだ。
「とにかく話をしよう。まずは、それからだ」
三鷹もまた当然ながら紋付き羽織ではなく、普段着に戻っている。薄手のフードつきのトレーナーは淡いブルー、長い足を包んでいるのはいかにもはき古したらしいジーンズだ。やはり、この男は定職を持たないフリーターか暇を持て余しているホストに違いない。
由梨亜は勝手に判断した。
「判ったわ。話を聞けば良いんでしょ。だから、手を放して、今すぐに」
「本当に逃げないか?」
「しつこいわね。逃げたりしないわ」
よろしいと鹿爪らし顔で三鷹は頷いた。
「まず、君の欲しいものはこれだろ」
と、差し出されたのは、薄っぺらい封筒。
「あの田中って人から預かってきた」
ということは、この封筒の中身は今日の謝礼ということなのだろう。
「じゃあ、早く渡してちょうだい」
由梨亜の鼻息の荒さは、三鷹が中身を今しも横取りしそうだと勘繰っていることが丸わかりだ。
三鷹は苦笑して、由梨亜に封筒を渡した。由梨亜は封筒のあまりの薄さに、つい中身を覗いてしまった。
刹那、今日一日の疲れがドッと出て、その場に座り込みそうになった。早朝から夕方まで拘束され、何度も重たい衣装を脱ぎ着して、更に余計なおまけ―チャぺルでのキスのことである―まで付いてきた代理花嫁を務めた報酬がこの結果とは。
あまりに情けなさ過ぎて、涙も出ない。
「たったの二万五千円なんて、あんまりだわ」
つい本音が呟きとなって洩れた。
「キレイな衣装を着て、記念写真までただで貰えて、しかもフランス料理のフルコースをただ食いだぜ? それで二万も貰えるなら、悪くはないと思うけど」
三鷹が屈託なく言うのに、由梨亜は思わず声を荒げていた。
「あなたと一緒にしないで。ろくに働きもせずに、女にちゃらちゃらと上手いことばかりを言ってるような男とは違うんだから、私は」
「君、俺のこと、相当酷(ひど)い男だと思ってない?」
三鷹は由梨亜は最後まで言わせなかった。男にしては長くて細い指が由梨亜の唇にそっと押し当てられたからだ。
「とにかく話をしよう。まずは、それからだ」
三鷹もまた当然ながら紋付き羽織ではなく、普段着に戻っている。薄手のフードつきのトレーナーは淡いブルー、長い足を包んでいるのはいかにもはき古したらしいジーンズだ。やはり、この男は定職を持たないフリーターか暇を持て余しているホストに違いない。
由梨亜は勝手に判断した。
「判ったわ。話を聞けば良いんでしょ。だから、手を放して、今すぐに」
「本当に逃げないか?」
「しつこいわね。逃げたりしないわ」
よろしいと鹿爪らし顔で三鷹は頷いた。
「まず、君の欲しいものはこれだろ」
と、差し出されたのは、薄っぺらい封筒。
「あの田中って人から預かってきた」
ということは、この封筒の中身は今日の謝礼ということなのだろう。
「じゃあ、早く渡してちょうだい」
由梨亜の鼻息の荒さは、三鷹が中身を今しも横取りしそうだと勘繰っていることが丸わかりだ。
三鷹は苦笑して、由梨亜に封筒を渡した。由梨亜は封筒のあまりの薄さに、つい中身を覗いてしまった。
刹那、今日一日の疲れがドッと出て、その場に座り込みそうになった。早朝から夕方まで拘束され、何度も重たい衣装を脱ぎ着して、更に余計なおまけ―チャぺルでのキスのことである―まで付いてきた代理花嫁を務めた報酬がこの結果とは。
あまりに情けなさ過ぎて、涙も出ない。
「たったの二万五千円なんて、あんまりだわ」
つい本音が呟きとなって洩れた。
「キレイな衣装を着て、記念写真までただで貰えて、しかもフランス料理のフルコースをただ食いだぜ? それで二万も貰えるなら、悪くはないと思うけど」
三鷹が屈託なく言うのに、由梨亜は思わず声を荒げていた。
「あなたと一緒にしないで。ろくに働きもせずに、女にちゃらちゃらと上手いことばかりを言ってるような男とは違うんだから、私は」
「君、俺のこと、相当酷(ひど)い男だと思ってない?」
