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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第4章 ★惹かれ合う心たち★

 言い過ぎだと自分でも思った。なのに、一度、溢れ出した言葉はほとばしり出て止まらない。
 三鷹がしたことは確かに少し常識を逸脱しているかもしれない。しかし、彼に悪気はなかったはずだ。ただ由梨亜が歓ぶのではないかと純粋に考えて、花かごを母に贈ったのだろう。それなのに、ここまで彼を責めるのは間違っている。
「判った。これからはもうしない」
 三鷹は沈んだ声で言った。
 そのときの酷く傷ついた表情が由梨亜の胸をついた。
「出かけてくるよ。遅くなるかもしれないから、先に寝ていて」
 三鷹は一旦寝室に入ると、直に出てきた。まだリビングにいた由梨亜には眼もくれずに通り過ぎ、マンションを出ていった。
 その夜、由梨亜はまんじりともできなかった。眼を閉じて眠ろうとしても、三鷹のあの表情、まるで行き場を失った迷子の子猫のような眼が浮かんでしまう。
 心ない言葉の礫(つぶて)で、自分は明らかに彼を傷つけてしまった。帰ってきたら、ちゃんと謝ろうと思い、眠れないままベッドの中で幾度も寝返りを打っている中に、うとうとと浅い微睡みに落ちたようだ。
 マンションの玄関ドアが開いたのは午前二時を回っていた。孤独な瞳をした彼はどこを彷徨(さまよ)っていたのか。

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