偽装結婚~代理花嫁の恋~
第4章 ★惹かれ合う心たち★
「お袋さんの具合はどう?」
矢継ぎ早に訊ねられ、由梨亜はか細い声で応える。
「調子は良さそう。もう部屋でじっとしてられないみたいで、いつ行っても部屋にいないのよ」
「それは良かった」
三鷹は冊子を閉じると、さりげなくクリスタルテーブルの下に置いた。脇へ寄せるだけで良いのに、わざわざ下に置くのは勘繰れば、由梨亜の眼から隠したいためのようにも思える。
「流石に毎日ピザでは飽きるしね。今夜は何を取ろうか」
「欲しくないの。あなただけどうぞ召し上がって」
由梨亜はそのまま奥の自室へ行こうとして、振り返った。
「三鷹さん、もしかしてN病院に母宛で花かごを贈ったの?」
三鷹は一瞬、眼を見開いた。
「ああ、流石に実名ではまずいかと思って、イニシャルで贈ったけど」
短い沈黙が降り、三鷹が静かな声音で言った。
「いけなかったかな」
「高かったでしょう、立派な薔薇があんなにたくさんあったもの。あんな贅沢な花かごは見たこともない」
「君の気に障ったのなら、謝るよ。これからはもうしない―」
由梨亜は彼に皆まで言わせなかった。
「そういう問題ではないの! 私、母には何も話してないのよ。母はごく平凡な人で、これまで地道に生きてきたの。娘の私が偽装結婚なんて馬鹿げた契約を交わしたと知れば、本当にショックで心臓発作を起こしかねないわ。母に余計な疑いを持たせるようなことは一切しないでちょうだい」
由梨亜は首を振った。
「夕方、病院の売店で花を買ったわ。向日葵と紫陽花、どちらもとてもキレイに見えた。でも、あなたが贈ってくれたバスケットを見たら、自分の買ってきた花が急に色褪せて見えたの。数十本の薔薇の前では、所詮、数本の向日葵と紫陽花は霞んでしまう。そんな貧相な花を後生大事に抱えてきた自分が物凄く惨めに思えたの。その時、考えた。あなたと私の住む世界はこれくらい違うんだって。金持ちの道楽息子が考え出した偽装結婚になんて協力している私はもっと大馬鹿だって」
矢継ぎ早に訊ねられ、由梨亜はか細い声で応える。
「調子は良さそう。もう部屋でじっとしてられないみたいで、いつ行っても部屋にいないのよ」
「それは良かった」
三鷹は冊子を閉じると、さりげなくクリスタルテーブルの下に置いた。脇へ寄せるだけで良いのに、わざわざ下に置くのは勘繰れば、由梨亜の眼から隠したいためのようにも思える。
「流石に毎日ピザでは飽きるしね。今夜は何を取ろうか」
「欲しくないの。あなただけどうぞ召し上がって」
由梨亜はそのまま奥の自室へ行こうとして、振り返った。
「三鷹さん、もしかしてN病院に母宛で花かごを贈ったの?」
三鷹は一瞬、眼を見開いた。
「ああ、流石に実名ではまずいかと思って、イニシャルで贈ったけど」
短い沈黙が降り、三鷹が静かな声音で言った。
「いけなかったかな」
「高かったでしょう、立派な薔薇があんなにたくさんあったもの。あんな贅沢な花かごは見たこともない」
「君の気に障ったのなら、謝るよ。これからはもうしない―」
由梨亜は彼に皆まで言わせなかった。
「そういう問題ではないの! 私、母には何も話してないのよ。母はごく平凡な人で、これまで地道に生きてきたの。娘の私が偽装結婚なんて馬鹿げた契約を交わしたと知れば、本当にショックで心臓発作を起こしかねないわ。母に余計な疑いを持たせるようなことは一切しないでちょうだい」
由梨亜は首を振った。
「夕方、病院の売店で花を買ったわ。向日葵と紫陽花、どちらもとてもキレイに見えた。でも、あなたが贈ってくれたバスケットを見たら、自分の買ってきた花が急に色褪せて見えたの。数十本の薔薇の前では、所詮、数本の向日葵と紫陽花は霞んでしまう。そんな貧相な花を後生大事に抱えてきた自分が物凄く惨めに思えたの。その時、考えた。あなたと私の住む世界はこれくらい違うんだって。金持ちの道楽息子が考え出した偽装結婚になんて協力している私はもっと大馬鹿だって」