テキストサイズ

偽装結婚~代理花嫁の恋~

第4章 ★惹かれ合う心たち★

「頼む。いつかのように無理強いをしたりはしないから、少しだけ俺の話を聞いて」
 由梨亜はその声に含まれるあまりに悲痛な響きに胸をつかれた。彼女が抵抗を止めたのに勇気を得たのか、三鷹の声は少し力を帯びた。
「君が好きだ」
 その瞬間、由梨亜は息を呑んだ。
「三鷹さん―」
「黙って! 俺の話を聞くんだ」
 三鷹は更に強い口調で言い、由梨亜を抱く手にも力を込めた。
「君はいつか言ったね。こんなことは馬鹿げている。良識のある人間なら偽装結婚なんてそもそも考えつかないし、その話に乗ったりしないと」
 三鷹はここで息をついた。
「俺もそのとおりだと思う。俺たちの住む世界が違うとも君は言ったけれど、恐らく、それも真実だろう。由梨亜ちゃん、俺が生きてきた世界は、君のような純真な女の子が想像もできない信じられないようなところなんだよ。結婚なんて、愛のためにするものじゃない。ただ世間体を取り繕うために、後継者を得るために妻を迎え、器だけで中身のない空っぽの家庭を作る。それが当たり前の世界で俺は生まれ育った」
「―それは気の毒だとは思うけど、私には関係ない話だわ」
 由梨亜が言うと、三鷹はフと低く笑った。
 とても淋しげな―虚ろにも聞こえる笑い声だ。
「模擬披露宴の日は代役の花嫁を探しにきたんだ。金欲しさではなく、目的は偽装結婚の片棒を担いでくれそうな女の子を見つけるためだった。見も知らぬ女の子なら、後腐れがないのではないかと思ってね。金で片を付ける契約ともなれば、余計にすんなりと偽物の夫婦も止められるだろうと考えた」
 だが、そうはいかなかった。
 三鷹は殆ど聞き取れないほどの声で呟いた。
「流石に俺自身も当日は認めようとはしなかったけど、君との出逢いはひとめ惚れだったんだよ。チャペルで君が涙をみせたあの時、俺は君の涙を見て、ぐっときた。思わず衝動的に君を抱きしめてキスしてしまったんだ」
「そんなことを言われても、困るわ」
 多分、私も彼を好き。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ