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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第4章 ★惹かれ合う心たち★

「家で奥さんが待っているというのも良いもんだね。今までは明かりも付いていないマンションに帰るのが苦痛で、仕事帰りにはバーとかクラブに寄っていたんだよ。でも、不思議に君が家で待ってるんだと思うと、どこにも寄る気にはならなくなった。可愛い妻と美味しいご馳走が待ってるんだ、俺はつくづく幸せ者だってね」
 由梨亜の珊瑚色の唇が震えた。
「そんなこと―、言わないで」
―不思議に君が家で待ってるんだと思うと、どこにも寄る気にはならなくなった。
 そんな科白は反則だ。それでは、まるで三鷹も自分と同じように、この偽物の結婚生活を楽しんでいるようではないか。
「どうして? 俺の偽りのない本当の気持ちだよ」
「今の生活は紛い物なのよ? 私たちは本物の夫婦じゃなくて、偽装結婚した夫婦なのよ」
「じゃあ、本物にすれば良い」
 事もなげに断じた三鷹に、由梨亜は悲鳴のような声を上げた。
「三鷹さん!」
 永遠に思える沈黙が流れた後、由梨亜がポツリと言った。
「私はあなたより年上よ」
 三鷹が笑った。
「今時、一つや二つの歳の差なんて誰も気にしない。女の方がもっと年上のカップルもいる」
「結婚はゲームではないわ。私たちはたまたま模擬披露宴で花嫁と花婿の役を務めたというだけで偽装結婚した。でも、それで途中から本物の夫婦になったとしても、上手くゆくはずがないもの」
「何で最初からそんな風に決めつける? 大昔は結婚なんてものは、親同士が勝手に決めて互いに顔も知らずに結婚したんだ。そんな時代も確かにあったのに、俺たちはちゃんとお互いを知っているし、こうして一緒に暮らしてる。結婚するのに不都合はないはずだ」
「できないわ、そんなこと、できっこない」
 由梨亜は夢中で立ち上がり、キッチンを横切った。
「待てよ。ちゃんと最後まで話そう」
「話すことなんてないわ」
 由梨名は頑なに言い張り、構わず出ていこうとした。その時。
 いきなり背後から抱きすくめられ、由梨亜は身を強ばらせた。
「三鷹さん?」
 愕いて抵抗しようとする由梨亜に、三鷹の懇願するような声が聞こえてくる。

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