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A fin-de-siecle angel

第1章 A

部屋のドアをなにか繊細な物に触れるよう、そっと重量をかけた。
「ただいまー」

「お帰りー純ー!遅かったね。飲んできた?」

「ちょっとね。あ、帰りに裕美の買い物付き合ってて遅くなったー。」

ハンドクリームだが。
「夕飯食べてきたから。後片付けは私がしておくよ。」

「そう。忙ししのに悪いな。」


旦那、長瀬準司は32歳の商社マンだ。
私達は比較的早めの結婚だった。ただ、間違ってもゴムが破れて漏れてしまった婚なんかではない。

大変失礼な名前だが、世の中の事を大抵知り尽くした私に、そんな事が起こったらキセキである。

私は台所に向かい、スポンジに手をかけようとしたら自分の手が少しヒビ割れていた。

「そういえばさー準司ー。ワタシ会社辞めたよー。」

「えっ。ほんとかー。」

「うん。これからは準司にお世話になります。」

「あー。嬉しんだけどさ、なんかあったー?」

クビになった。

「ううん。いや、ワタシもさーあと5年もしないうちに30でしょー(笑)花嫁修行ってか、家の事も、きちんとやらないとダメだし…ホラ、そろそろ子供も…」

「そうだなー…へー。考えてんだ?やばっ(笑)どうしよう。泣けてくる…」
「準司も家に誰か居てくれた方が嬉しいでしょっ?」

そういえば最近、東京で一番ピルが安い産科を見つけた。裕美もたまには良い事を教えてくれる。

それから準司が後ろから抱きつき皿洗いの妨害をしてくる。

「純、あいしてるよ。」

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