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みえない鎖

第30章 解くしがらみと甘い誘惑

アキが私を見下ろしている。

表情は怒りでもなく、戸惑いでもなく、悲しそうでもなく、ただ水面が静かに留まるかのように静寂。

だから、内心はどうなのか、読み取れない。

不可効力で元カレと遭遇したことによる驚愕、
その場面をアキに見られたことによるアキに対する後ろめたさ、
有無を言わさずここまで連れて来られた事による理不尽さからくる怒り・・・を通り越して悲しくなり、

それらが複雑に絡み合って感情が、まとまらない。

どこまでぶつけていいのか、どこまでぶつけてはだめなのか、アキとは経験が無いから解らない。

今から冷却時間を作ると、直ぐは良くても亀裂が中々埋まらなかったら嫌だし、

言葉を一言でも発した場合、少しでも間違えたら罵倒し合っちゃうかも・・・それはそれで良い事もあるけど、

今は言葉にする事がいいとは思えなくて、どれが正解か解らないまま、両腕を伸ばし、アキの背に手を伸ばした。

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