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神さま、あと三日だけ時間をください。

第3章 ♭ミュウとシュン~MailsⅡ~♭

 琢郎はどうやら、後ろから女を犯すのが好みらしい。これも美海は初めて知り得たことだった。これまで夫がこんなやり方で彼女を求めてきたことはなかったからだ。 
 朝方までに何度、抱かれて絶頂に上り詰めたか知れない。漸く疲れて眠り込んだ琢郎の傍らで、美海は涙も涸れ果てた瞳で天井をぼんやりと見上げていた。
 あれほど烈しく美海を抱いたことなど嘘のように、琢郎は安らいで眠っている。
 不思議なことに、琢郎を見ても憎悪や怒りは湧いてこなかった。ただ空しさだけが美海の空虚な心を支配していた。
 これほどまでに酷い抱き方をされても、自分はまだ琢郎を嫌いになれない。自分の中に夫への気持ちがまだ欠片でも残っていることに、こんな形で気づくとは皮肉なものだった。
 美海の記憶が巻き戻されてゆく。
 琢郎が社会人になって二年目、美海が大学四年の冬、二人だけで初めてスキー旅行に出かけたときのこと。
 琢郎は当然ながら宿泊先のホテルで美海を欲しがった。だが、美海が泣いて嫌がると、無理強いはせずに朝までずっと膝に乗せて子どもをあやすように抱きしめてくれていた。
 付き合って数年目で初めて結ばれた日、まさにその日、琢郎の方からプロポーズしてきたときのこともよく憶えている。
 そう、いつだって琢郎は優しかった。美海がいやだと言えば、けして何でも強制はしなかったのだ。しかし、その優しさも今から思えば、彼の忍耐と辛抱強さのなせるものだったのだろう。
 世間知らずな美海のせいで、琢郎はずっと本当の自分というものを出せないでいたのではないか。だから、昨夜もああいう形で、長年わだかまっていたものが爆発したのかもしれない。
 本当の自分を抑えていたという点では、美海も琢郎と同じだが、それは当然のことだ。夫婦とはいえ、全く別人格を持つ二人が一つ屋根の下で暮らしている以上、ある程度の気遣いは必要不可欠だ。夫婦間においても、共同生活上のマナーは守るべきだと、美海は常日頃から考えている。
 夫が妻である自分との性生活が物足りず、風俗に行っていた―、そのことにショックはある。しかし、ショックよりも、琢郎に我慢を強いていたこと、更には、彼がひたすら我慢していたことに自分が全く気づけなかった方がかえって辛かった。

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