テキストサイズ

神さま、あと三日だけ時間をください。

第3章 ♭ミュウとシュン~MailsⅡ~♭

 美海がシュンのアパートを出たのは午後二時を回っていた。
 シュンの車で再び駅まで送って貰う。下りのプラットフォームに立つと、夏の午後の海が蒼く輝いていた。今日も前に逢ったときのように、大きな入道雲が水平線の彼方にひろがっている。まるで巨大な綿菓子が並んでいるようだ。
 ふと振り返った拍子に、背後に立つ駅名を記した看板が眼に入り、美海は眼を見開いた。
 どの駅でも見かける駅名が二人の真後ろに掲げられている。人がやっと数人座れるほどの簡素な木製のベンチがあり、その周囲を囲うように屋根がついている。駅名はベンチの背もたれの真上についていた。
―切別(きりわけ)
 当然ながら、上りと下り方向の次駅の名前も左右に記されていた。
「珍しい名前なのね」
 最初、シュンは美海の言葉をうまく解せなかったようだった。小首を傾げ、それから、彼女の視線を辿って初めて、なるほどというように頷いて見せた。
「ああ、これね。結構珍しいだろ、よく雑誌やテレビ番組の〝全国の珍しい駅名〟特集なんかに取り上げられるんだ」
 やはり自分の暮らす町のせいか、少し誇らしげに言う。
 美海は肩から下げたショルダーバッグを開け、携帯を出した。一枚、写真に撮っておく。
 それからふと思いついた。
「シュンさん、一枚だけ撮りましょう」
 〝切別〟と大きく記された駅名を背景に、二人並んだ。
「良いかい? ワン、ツー、スリー」
 シュンが携帯のレンズを自分たちの方に向け、シャッターを押す。シャッター音がして、小さな画面に撮ったばかりの画像が映った。
「こんな感じで良い?」
 〝切別〟の字もちゃんと判るように入っている。写真の中のシュンと美海は確かに十七歳も歳の差があるようには見えない。自分で言うのも何だけれど、それなりに似合っているカップルのように思えた。
「この地名には何か由来があるとか?」
 興味を引かれて訊ねると、シュンは少しの躊躇いを見せてから、こんな話をしてくれた。
「ここから少し行った先に岬がある。その真下に三つの岩が並んでいて、大きな岩二つが小さな岩をはさむような格好で並んでいる。この辺りでは誰でも知っている伝説だよ」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ