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神さま、あと三日だけ時間をください。

第4章 ♭切ない別れ♭

 コーヒーには砂糖とミルクをたっぷりと入れる。こんなところも、シュンとは全然違う。
 琢郎の問いは当然といえた。美海は琢郎を真っすぐに見つめた。流石に少し緊張する。
「I町に行こうと思うの」
「I町? そんな遠方に何か用があるのか?」
 I町はN町から車か電車で三時間くらい。町といってもN町や琢郎の住むM町と異なり、ちょっとした都会(まち)である。
「高校時代の同窓会があるの」
「高校の同窓会といえば、皐月さんも行くんだろう?」
皐月は女子高時代からの親友でもある。
「ええ。もちろんよ」
「何時頃、帰ってくる? 駅まで迎えにいくよ。ついでにどこかで外食して帰ろう」
 琢郎が駅まで自分から迎えにきたことなど、かつて一度たりともなかった。何故、今回に限り、今までしようともしなかったことをするのか?
 もしや、シュンとのことを気づかれている―?
 美海は背中に氷塊を入れられたような気分になった。
「あ、迎えは良いの。ああいう会って、盛り上がったら何時にお開きになるか判らないでしょう。だから、ちゃんとした時間は言えないわ。それに泊まりだし」
「泊まりだって?」
 琢郎の眉が少しだけ、つり上がった。
「それは聞いてないぞ」
「だから、今、言ってるじゃない」
「どこに泊まるんだ?」
「Iホテル」
「皐月さんはまだ小さい子どもが三人もいるってのに、泊まりなのか?」
 これでは、まるで警察の尋問を受けているようだ。美海は少し声を尖らせた。
「一日くらいだったら、浩介さんは何も言わないんでしょう。ねえ、琢郎さん。私は確かにあなたの妻だけれど、別に子どもじゃないと、あなたが私の保護者というわけでもないのよ。だから、そんな風にあれこれと詮索するのは止めて。何だか警察の取り調べを受けているようで、嫌なの」
「―判った。お前がいやだというのなら、もう、これ以上の詮索は止めるよ」
 いつになくあっさりと引き下がるところも、不気味といえばほ不気味だ。やはり、琢郎は何か感づいているのだろうか。

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