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神さま、あと三日だけ時間をください。

第4章 ♭切ない別れ♭

 自分の部屋へ入ると、デスクに向かい携帯を開いた。やはり、新着メールが二通来ている。

七月○日午後四時五分
 幾ら何でも家に着いてる頃だよね。ミュウの様子が普通じゃなかったから、心配してるんだ。着いたら、メールして。  シュン

   午後五時二十一分
 最初にミュウから電話があったときは愕いたけど、今日は思いがけず君に逢えて嬉しかった。              シュン
        ↓
   午後七時十七分
 いきなり押しかけてしまって、本当に申し訳なく思ってます。心配もかけてしまったようで、ごめんなさい。無事に家に帰り着いたよ。今夜はこれでおやすみなさい。 ミュウ

 そこまで打ち込んで、美海は携帯の画面をじいっと見つめた。少し考えてから、続きを入力し始める。

 追伸
  I町には行くつもり。よろしくね。 

 一行だけ付け足して、それから僅かに躊躇い、思い切って送信を押した。 

 その四日後の朝。
 美海は朝食を食べながら、琢郎に言った。
「今日、午後から出かけてこようと思うの」
「どこに行くんだ?」
 さんざん酔っぱらった挙げ句、爆睡した琢郎は翌日は丸一日、二日酔いで悩むことになった。むろん、会社は二日続けて休んだ。
 あれから琢郎も美海もあの日については一切、触れない。琢郎は元々、面子に拘る男なのだ。多分、あのとき―帰宅したばかりの美海に涙をみせたことも、〝棄てないでくれ〟と訴えたことも憶えているに違いない。
 知っていて、知らんふりをしているのだ。だが、あの日のことをここで持ち出して、琢郎の男としての自尊心を傷つけても、何の意味もない。
 琢郎は毎朝のメニューは決まっている。ほどよく焼いたトーストに目玉焼きとグリーンレタス、最後は新聞を読みながらコーヒーメーカーで淹れたコーヒーを時間をかけてゆっくりと味わう。

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